本の題名になった言葉を質問としてぶつけられたら、さて何と答えるだろう。口はあんぐり、視線は宙へ。なにせ何にも知らない。正直に言うと早死にした祖父母の名前だって怪しいものだ。
著者もかつては似たようなものだったという。ところが高校生の頃、数年前に亡くなった父親が在日コリアンであったと初めて知る。
やがて「外国人登録原票」の存在を知り、これを足掛かりに謎解きを始める。父はなぜ自身の出自を隠して生きたのか。
調べるうちに、日本で生まれながら「差別」にさらされ、「管理」「監視」された父の人生の苦難の道のりを知る。
フォトジャーナリストとして難民問題などに取り組んできた著者は、マイノリティとして日本で生きる人々と対話を重ねることで自分探しの旅を深めていく。その過程をそのまま記録したのが、この本である。
ボートピープルとして日本にたどり着き、日本名を名乗って生きるベトナム料理店の店長。迫害を恐れ、ロヒンギャであることを隠して生きた経験を持つ女性、八歳まで無国籍だったフィリピンとハーフの女性など。読み進めるうちに、この国はすでに多様性に満ちているのだとわかる仕組みだ。そうした人々に光が当たらなかっただけなのだ。
名古屋入管で満足な医療を受けられずに死亡したスリランカ出身の女性、ウィシュマ・サンダマリさんの問題も丁寧に取材している。コロナ禍の中でスリランカに飛び、実家や学校を訪ねて、彼女が生きた軌跡をたどった。入管で番号で呼ばれた女性ウィシュマさんに、実は豊かな人生があったと気付かせてくれた。
(左右社1800円)
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