神奈川支部は4月23日にJCJ本部の協力で、オンライン講演会「見直しの声強まる! リニア新幹線」を開いた。講師は神奈川支部会員の天野捷一リニア新幹線沿線住民ネットワーク共同代表。
天野さんの講演要旨は以下の通り。
リニア中央新幹線建設の決定は2011年5月。磁気浮上型の新方式は在来方式と比較して建設費は増すが、大幅な時間短縮の便益があると国交省の審議会が答申した。建設費は全額JR東海負担で、公共事業ではなく民間企業の事業という位置づけでスタートした。このことで、後のち様々な情報が隠されたと天野さんは指摘する。
当時言われた建設の目的や効果は、@東海道新幹線の輸送力が限界に達している。A東南海トラフ地震など大規模地震に備える大動脈の二重化。B東京、中京、関西の三大都市圏を短時間で結ぶ経済効果。C観光客増による地域経済の活性化。しかし現在では、推進派も在来新幹線の輸送力の限界や地域活性化は言わない。
政党では自、公、立民、維新、国民などが推進の立場、また東京、神奈川から奈良、大阪に至る静岡県を除く沿線自治体が「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会を作って応援している。
リニアはどういうルートを通るのか。品川駅から大深度地下のトンネルを通り神奈川県、山梨県へ。南アルプスや中央アルプスもトンネルで通過し、岐阜県を通って名古屋へ向かう。途中、神奈川県の相模原市、山梨県の甲府市、長野県の飯田市、岐阜県の中津川市に駅が作られる。
さらに三重県、奈良県を通って大阪までの延伸も計画されている。名古屋まで開業してから8年後には工事をする。建設費の4兆円は国の財政投融資が使われる。巨額の財投が一民間企業につかわれるのは異例だ。
在来の新幹線と比べると、リニア新幹線の建設費は倍以上。大阪まで延伸されると10兆円にのぼる。維持費も年間2800億円かかると推定されている。
推進の立場のシンクタンクが発表した開業後の経済効果をみても東京が格段に多く、東京一極集中を加速させそうだ。
将来は少子高齢化で生産労働人口も減少、ビジネスでリニア新幹線を利用する人口も減ると考えられ、需要の面でも赤字が予想される。
リニアは建設工事でも大きな課題を抱えている。トンネル区間が多いリニアは膨大な建設残土が発生する。都市部では川崎・横浜のふ頭建設の埋め立て工事に利用するが、山間部では残土処分地に積まれる。
南アルプスではトンネル工事の影響で大井川の水量が減るため、湧出水を導水路で元の川へ戻すことが計画されているが、静岡県側は納得していない。
さらに大きな問題は大深度地下を巨大なシールドマシーンで掘り進む工法の危険性だ。
先に大深度地下工事で進んでいる外環道の工事現場では、2020年10月に調布市で住宅前の道路が陥没した。現在、NEXCO東日本では周辺住宅の取り壊しと地盤改良を提案している。こうしたトンネル工事による陥没は各地で起きている。
リニアは他にも、生態系へのダメージ、膨大な電力消費、磁界の影響、地震対策など多くの課題があるが、何も克服されていない。将来は負の遺産になる。
質疑応答
講演の後、チャットを通じて質問をうけつけた。
JR東海の経営を危惧する質問、どうしたら計画をとめられるかなどの質問が出た。
天野さんは、政治の力が大きいと指摘した。
また天野さんは工事の進捗は、都市圏の斜坑と駅の工事が主であり、名古屋までのトンネルを掘ってしまうと取り返しがつかないと語った。
保坂義久
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
2022年06月30日
この記事へのトラックバック