長崎市幹部による記者へのセクハラ、長崎地裁で原告が勝訴した(新聞労連提供)
長崎市の原爆被爆対策部長(故人)から2007年、平和祈念式典について取材中に性暴力を受けたとして、女性記者が長崎市に損害賠償などを求めた事件の裁判で、2022年5月30日、長崎地裁(天川博義裁判長)は原告の主張を認め、同市に約2000万円の支払いを命じる判決を言い渡した。これを受けて、長崎市は6月7日、判決を受け入れ、控訴しない意思を示した。
裁判所は、取材記者に対する公務員の職権濫用による性暴力の事実を認め、「性的自由を侵害するもの」として違法と判断。情報を出す側として、情報のコントロール権を持つ公務員が職務として取材に応じ、支配的な側面を持ち得る中で起きた事件だということが認められた。公権力と報道の関係を語る上での画期的判決といえる。裁判所は被告の長崎市に国家賠償法上の責任があると判断した。
判決では「取材の協力を求めて連絡してきたことを奇貨として、協力するかのような態度を示しつつ、拒否しがたい立場にある原告に対して、執拗に指示して加害場所に入った」と認定した。取材する側が、職務上得られた情報の出し方を差配する公的機関からのコントロールを受けやすい立場であることが認められたことは、「報道の自由」を標榜する報道機関にとって、大いなる意義がある。今後、公権力に対する取材のあり方について議論するきっかけとなるだろう。
これまでも記者は警察や行政機関、政治家を相手に「特ダネ競争」に翻弄されてきた。記者は少しでも早く、多くの情報を得るため、取材先との信頼関係を結ぼうと必死だ。そういう中で女性記者の性暴力被害、セクハラ被害は長年隠されてきた。
抑圧的な関係性は原告と長崎市に限らず、どの公権力と報道機関でも起き得る。セクハラ被害が矮小化されたり、被害事実が疑われたりしてきたが、被害が関係性による職権の濫用によって起きたと認められることで、報道機関や公権力側の関係性見直しやセクハラや性暴力被害防止について具体策に生かすこともできる。
原告は一部の週刊誌などによって虚偽が流布され、二次被害を被った。市幹部による証言を基にした虚偽の流布について、裁判所は、市は二次被害が予見できる時は防止すべく関係職員に注意する義務があり、これを怠った、として市の責任を認めた。加えて女性蔑視など差別や偏見による「強かん神話」に乗じて、市側は原告の落ち度を指摘したが、裁判所は認めなかった。
この判断は、偏見をもたれ尊厳を傷つけられた性暴力やセクハラの被害者やさまざまな形で虐げられてきた当事者を後押しするものとなるだろう。
吉永磨美(新聞労連委員長)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
2022年07月12日
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