2022年07月14日

【メディアウオッチ】「逮捕された記者こそ被害者」札幌で「取材の自由」を考えるフォーラム 大学・道新に厳しい批判=高田正基

                   
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 新聞労連と北海道新聞労組主催の「『取材の自由]を考えるフォーラム」が5月22日、札幌市で開かれた(写真)。旭川医科大を取材中の道新記者が昨年6月、建造物侵入容疑で大学職員に現行犯逮捕(常人逮捕)された問題をテーマにパネル討論が行われ、「記者逮捕は不当だった」「道新の説明はまるで警察発表のようだ」など、大学や道新に対し厳しい批判が相次いだ
 日本ジャーナリスト会議などが後援し、道内外から会場、オンライン合わせて約60人が参加した。
 パネル討論は吉永磨美・新聞労連委員長の司会で、ジャーナリストの金平茂紀氏、「放送レポート」編集委員の臺宏士氏、岩橋拓郎・新聞労連新聞研究部長、安藤健・道新労組委員長の4人が意見交換した(臺氏と岩橋氏はこの事件の労連検証チームメンバー)。
 論点は@記者逮捕の妥当性A道新の会社対応の問題点B労組・報道機関はどう構えるべきか―の三つ。

■記者逮捕の妥当性

 臺氏は、不適切発言や経費の不正支出が問題になった旭川医大学長の解任を審議する学長選考会議を取材するのは、報道機関として「知る権利」に応えるものだったとして「記者は形式的に侵入したかもしれないが、取材活動の一環であり、報道の自由がある」「当該記者こそ犯罪の被害者だというアプローチの検討も必要だった」と指摘した。
 金平氏も「記者が大学に入ったことを建造物侵入という機械的な条文解釈で逮捕なんかできると思うのか」と大学側を批判した。
 議論は記者逮捕が各メディアで大きく取り上げられなかったことにも及んだ。
 岩橋氏は「同業他社が関係各方面に配慮し、事なかれ主義に走ったのではないか。他社がこの事案を過小評価した可能性もある」として「メディアは権力行使のありようについて鈍感であってはならない」と訴えた。

■記者逮捕の妥当性

 労連検証チームのメンバーである岩橋氏は道新の対応について「初動、実名報道の是非、説明責任」の三つの問題があると指摘。建造物侵入罪が成立しない可能性があるにもかかわらず「外形的事実として争いようがない」「法律違反が成立している可能性が高い」という道新の判断はまるで捜査機関の言い分のようだと断じた。そのうえで「取材目的」という正当な理由があったと、当初から主張すべきだったと強調した。
 記者がスマートフォンで会議を録音していた行為を、道新が「盗聴していた」と表現したことも問題視され、臺氏や金平氏は「記者が犯罪人であるかのような対応だ」「言論機関のマネジメントにかかわる人間が発する言葉か、と耳を疑った」などと厳しく批判した。
 実名報道については「拙速な判断だった」(岩橋氏)という指摘の一方で、逮捕の不当性を訴えるためには実名もありうるとの意見もあった。
臺氏は「懲罰的な実名報道ではなく、誤った権力行使で逮捕されたという立場から実名を選択すべき事案だった」。安藤氏も「事実を記録して訴えるためには、だれが逮捕されたかという名前がないと戦えないというのが現時点の結論だ」とした。
道新の説明責任については「社内調査報告をホームページの会員登録をしなければ読めない記事に指定していた。メディアとしてよりオープンな態度が必要だった」(岩橋氏)、「調査報告の書きぶりに組合員から『責任を現場に押し付けているだけだ』という声が強く上がった」(安藤氏)など、発表手法や説明の不十分さが批判された。

■労組・報道機関の構え

 吉永氏が「こうした事案はこれから増えてくるかもしれない」と懸念を示し、岩橋氏は「(新聞労連として)記者がもし逮捕されそうになったらどうするか、についてまとめた小冊子を作る予定だ」と報告した。
 金平氏は「職業的な報道マンやジャーナリストへの根源的な疑いが出てきている」として、「ひるむな、萎縮するな」と現場記者たちにエールを送った。
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 パネル討論のあと、道新労組と新聞労連がこれまでの取り組みを報告した。吉永氏は「メモ的録音は問題なのか、議論していくべきだ」と問題提起した。
 高田正基(JCJ北海道支部代表委員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
posted by JCJ at 07:32 | TrackBack(0) | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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