2022年08月06日
【オンライン講演】ウクライナと憲法9条 水島朝穂氏講演 軍事介入「仕組まれた」国家でなく諸国民に信頼=須貝道雄
ロシアのウクライナ侵攻が進む中、JCJは6月14日、「ウクライナの戦争と憲法9条」と題し、オンライン講演会を開いた。講師の水島朝穂・早大教授(憲法学)は、この戦争に多額の支援をする米国について@プーチンを挑発して、ウクライナに全面侵攻させ、事前にウクライナ側に準備させておいてこれをたたいたAコロナ禍で落ち込んだ米軍需産業の息を吹き返らせる機会にしている――と語り、仕組まれた戦争の側面を指摘した。
ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻する「口実」としたのは、親ロ派の多い東部ドンバス地域(ドネツク州・ルハンスク州)における「住民虐殺」だった。2014年から22年にかけて、ウクライナの武装部隊により「1万4千人殺された」(水島氏)とされる。
侵攻誘う狙いは
アフガンと同じ
こうした東部での戦闘をウクライナが続ける中で、米国は西側の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大を進めた。これらがロシアを刺激し、軍事行動へと誘い込んでいった、と水島氏は分析する。
ロシアの戦車部隊はウクライナ北部から首都、キーウを狙った。しかし侵攻の前年からウクライナには英米の軍事顧問が入り、対戦車兵器「ジャベリン」の準備をしていた。待ち構えたウクライナ軍がジャベリンで戦車を破壊した。
「相手を軍事介入するように仕向ける、罠に引き寄せるやり方は、かつて旧ソ連がアフガニスタンに侵攻した時(1979年)も、米国が密かにとった作戦だ。アフガン侵攻の長期化で、ソ連の国力を衰えさせる狙いがあった。今回も同様だろう」
アゾフ連隊の
不都合な真実
ロシア軍の侵攻後、ジャベリンを製造する米国のロッキード・マーチンとレイセオンの株価は上がった。バイデン米大統領はこれを秋の中間選挙に向け、有利な材料にしようとしている。「5月にバイデン氏は(ロッキード・マーチンの)工場視察をして激励しています。まさに選挙運動、票固めです」と水島氏は語った。
激情的あるいは感情的に戦争を見て、冷静さを失うことにも警告を発した。ロシアが侵略しているのは紛れもない事実だが、住民に対する殺戮などがすべてロシア軍によるものかどうかは現時点で即断できない面がある。ロシア軍が子どもを多数連行したり、女性が性暴力を受けたという情報もあったが、その発信者だったウクライナの人権監察官、リュドミラ・デニソワ氏は、ウクライナ最高会議から「証拠が確認されていない」として解任された。
またウクライナの武装組織、アゾフ連隊の「不都合な真実」にも目を向けるべきだという。アゾフ連隊のマークは、ナチスの第2SS装甲師団「ダス・ライヒ」が使ったマークとそっくりだ。「この師団はフランス中南部の村で住民皆殺しをしたことで知られる。アゾフ連隊はそれらと親近性がある。笑ってはいられない問題だ」と話した。
国の内外から
平和の創造を
では、この戦争をどうしたら止めることができるか。水島氏は日本国憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し……」に注目する。「その国の「平和を愛するピープル」と連帯して、内側から平和を創造していくことが大切。ジャーナリズムにも求められる」。ロシアでは「兵士の母の会」が戦争反対の声を上げている。ウクライナでも「前線に立ちたくない」と良心的兵役拒否を訴える人がいる。その力に依拠して平和世論を醸成していく。
もう一つは、NATOのような集団的自衛権機構(軍事同盟)ではなく、「ミンスク合意」をもたらした地域的集団安全保障の枠組みであるOSCE(欧州安全保障協力機構)の役割がさらに重要になる。日本は米国、G7・NATOに偏った対応に終始しているが、対外政策は、もっと多角的で多様なチャンネルを探るべきだと水島さんは強調した。
須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
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