本書は、琉球新報社のデジタル版に2020年11月から1年余、不定期に連載されてきた記者コラムを編集して、単行本化したものだ。
コラムに登場するのは、中堅からベテラン記者14人と編者でノンフィクションライターの安田浩一。今年5月、沖縄の施政権が返還されてから50年の節目を迎えたが、沖縄の記者たちは、現場で何を感じ、何を思い悩み、ニュースの核心にどう迫ろうとしたのか。「記者コラム」と銘打つことで、取材の内幕や記者個人の思いを形にしたのが琉球新報デジタルで発信した「沖縄発」だった。
日米両政府に異を唱える沖縄の新聞記者というと、眼をぎらつかせ、眉間にしわをよせて、沖縄への蔑視や差別と闘っているイメージをもたれがちだが、一人ひとりの記者にプライベートがあり、配偶者でもあり、子を持つ親でもある。取材時には喜怒哀楽の感情もわき上がる。時には私生活をなげうったり、逆にプライベートの中で大切なことに気付かされたりするそんなふつうの人間たちだ。
基地問題に横たわる不条理、沖縄に過重な負担を押しつけつつ、その核心をはぐらし続ける為政者と大手メディアの報道姿勢、沖縄戦の継承の在り方、ジェンダー平等と程遠い沖縄社会の病弊。コラムのそれぞれのテーマは、今の沖縄が置かれた状況を照らし出している。
「沖縄の等身大の記者たちの息づかいを、肩肘張らずに感じていただければ」。琉球新報社編集局長の松元剛は、本書に寄せている一文で、こう訴える。編者の安田のコメントも、沖縄の新聞記者たちに彩り濃くエールを贈っている。(高文研1980円)
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