2022年08月19日
【22緑陰図書―私のおすすめ】教育への政治介入に警鐘を鳴らす=前川喜平(現代教育行政研究会代表)
斉加尚代監督のドキュメンタリー映画「教育と愛国」は、すでに見たという人も多いだろう。2017年にギャラクシー賞を受賞したテレビ番組に「表現の不自由展・その後」や日本学術会議の会員任命拒否問題など、その後の取材を加えて映画化したものだ。この映画に合わせて読むといいのが、斉加尚代・毎日放送映像取材班『教育と愛国 誰が教室を窒息させるのか』(岩波書店)だ。
第T部はテレビ番組の内容をより詳しく描く。育鵬社教科書の執筆者伊藤隆東大名誉教授の、映像では割愛された発言が興味深い。たとえば日本学術会議会員への任命を拒否された加藤陽子東大教授については、「彼女はぼくが指導した」「あれは本性を隠してたな」などと語る。
第U部は橋下徹大阪府知事(当時)ら大阪維新の会が学校現場に対して行った数々の強権的な介入の様子が描かれる。大阪では教員志望者が減少し、「僕は本を読まないんです」と言う国語教師まで出現したという。吉村洋文大阪市長(当時)の意向により、学力テストの結果が校長のボーナスに反映されることになった。悪しき成果主義の最たるものだ。
ジェリー・Z・ミュラー(松本裕訳)『測りすぎ―なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』(みすず書房)は、測定基準(メトリクス)による実績の測定に執着することが引き起こす弊害を、ふんだんな事例を挙げて説明する。「学業成績の測定結果に応じた報酬が良いと主張する側の自己満足は、本当に子どもたちを教育しようと努力する人々を犠牲にする」。まさに大阪で起きていることだ。原題は「The Tyranny of Metrics」。ところどころ誤訳があるので、原書と照らし合わせて読むといい。ただし、著者が諜報活動において透明性は致命的だとして、E・スノーデンの行動を批判しているのには賛同できない。
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