2022年09月20日
【映画の鏡】経済成長で変わる農村の姿『出稼ぎの時代から』地方の在り方 根本から問う=鈴木賀津彦
「飯場で暮らす。枕元には長靴。」
山形県白鷹町教育委員会の倉庫から見つかった50年余り前のスライド作品「出稼ぎ」。スライドと台本、オープンリールの録音テープ。高度成長期の1966年冬から翌年春に出稼ぎに行った二十歳の青年が、働いた川崎市北部の団地造成現場や飯場の暮らしをカメラに収め、撮りためた写真で構成した作品を置賜地区視聴覚作品コンクールに出品したものだ。
1960年代に年間約2000人が出稼ぎしていたという白鷹町。作品発見をきっかけに、出稼ぎの時代とは何だったのかを再認識しようと、町民の中から映画製作の話が持ち上がり、その後の暮らしや関係者のインタビューなどの取材を町民有志で進めた。完成した79分の映画の上映が7月から地元で始まった。
当時は高価だったカメラを出稼ぎで貯めて購入した青年が、時代をどう捉えて、何を考えていたのか。その後大きく変わった農村の現状とこれからを見つめなおす原点が、この青年の感性にあると気付かされる。
白鷹町ってどんな地域だろうと検索すると、19世紀の女性旅行家イザベラ・バードがこの山形県南部、置賜地方を「東洋のアルカディア(理想郷)」と讃えたと解説する観光サイトを見つけた。この理想郷からの出稼ぎが都心の「繁栄」を支えてきたのだ。地方創生を叫ばれる今、目先の地域活性化にとどまらず、改めて戦後の経済成長の在り方を問い直して未来を見つめていかねばならないと、インタビューに淡々と語る住民の映像から感じた。
住民による地域メディアづくりや映像アーカイブの視点からも、この映画の上映活動を広げてほしい。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
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