2022年09月22日

【経済】報道は景気を左右する 物価高の不安煽る恐れ 事実の選択は適切か点検を=志田義寧

 物価高に関するニュースが連日、メディアを賑わせている。帝国データバンクの食品主要105社に対する調査によると、食料品の値上げは10月に今年最多の6000品目超が予定されており、すでに実施されたものも含めると今年2万品目に迫る勢いになっている。メディアが騒ぐのも無理はない。ただ、単に不安を煽るだけなら報道の役割を果たしているとは言えない。日本の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年比でまだ2%を超えた程度で、9%の米国とは明らかに状況が異なる。またCPI対象品目のうち、上昇は404品目あるが、下落と横ばいが170品目あることも見逃せない。人々の不安を煽るような報道が過熱すれば、実態とかけ離れたインフレ期待が醸成され、経済に悪影響を及ぼす可能性がある。

人々が報道の影響を受けていることを窺わせる調査がある。日銀が四半期に1回実施している「生活意識に関するアンケート調査」だ。22年6月調査では、景気の判断材料として最も多かったのが「自分や家族の収入の状況から」(約43%)で、次いで多かったのが「マスコミ報道を通じて」(約35%)だった。「マスコミ報道を通じて」は20年3月調査までは20%程度、4〜5位で推移していたが、同年6月調査で突然35%に上昇。以降、直近の調査まで30%台を中心に推移している。この間に何があったのかと言えば、新型コロナウイルスの感染拡大だ。NHKの新型コロナウイルス関連の特設サイトにある「コロナ関連記事全記録」によると、20年1月に289本だったコロナ関連ニュースは4月に4442本と急増している。人々がコロナ関連ニュースの影響を受けたことは想像に難くない。
4月号の機関紙で経済報道は同じ情報をベースにしても、書き方によって人々の行動に影響を与える「フレーミング効果」があると書いた。その一因になっているのが、人々の経済に対する理解不足だ。これは新型コロナウイルスでも同様のことが言える。報道は景気の「気」を左右する。

世界的ベストセラーになった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、報道に対して厳しい視点が目立つ。例えば、人々がネガティブな考え方から抜け出せないのは、悪いニュースに偏っているのが一因と指摘している。確かに良いニュースよりも悪いニュースの方が記事になりやすいのは事実だろう。それは報道を通じて社会を良くしたいという報道機関の立ち位置も影響している。
生活意識に関するアンケート調査では、物価上昇を「どちらかと言えば困ったことだ」と受け止める回答が8割超にのぼっている。現在は原材料価格の上昇と円安による「悪い物価上昇」であることも併せると、「悪いニュースに偏っている」報道が騒ぐのも当然と言える。
しかし、不安を煽るだけの報道はいらない。行動経済学によると、人は得する喜びよりも、損する悲しみの方が大きい。このため、人々は損失回避に全力をあげる。物価高のみを強調した報道が相次げば、経済の振幅をより大きくしかねない。

経済報道は取り上げる事実で正反対の記事を書くことも可能だ。例えばCPIは、昨年の100が今年102になれば前年比2%上昇だが、来年102を継続すれば前年比ゼロ%となる。102を取れば「高止まり」、ゼロ%を取れば「逆戻り」だ。だからこそ、書き方には細心の注意が必要となる。事実の選択は適切か、報道機関はいま一度、点検して欲しい。
 志田義寧
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
 
 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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