2022年09月27日

【おすすめ本】島田雅彦―『パンとサーカス』テロ、暗殺、爆弾、世直し 明日への夢を描き出す政治小説=鈴木耕(編集者)

著者が帯に「私の暴走 にどうかお付き合い下さ い」と書いているくらい だから、その暴走ぶりは ハンパじゃない。なにし ろ「主な登場人物」のペ ージを見るだけで胸が躍 るほど、多彩な人物が登 場する。主人公は2人、 広域暴力団組長の息子と、 その幼な友達の東大出の 秀才でCIAエージェン ト。彼らは高校時代に2 人きりの秘密結社「コン トラ・ムンディ」を結成 する。この設定がすでに ぶっ飛んでいるが、そこ に聖なる娼婦、伝説のホ ームレス詩人、老右翼の 超大物フィクサー、典型 的な二世議員の凡庸な売 国奴総理やリベラル野党 の党首、人権派弁護士、 警視庁警部、更にはCI Aや中国諜報機関が絡ん で、テロは起きるわ拷問 や暗殺も頻発するのだか ら、もうページを繰る手 が止まらない。読者は著 者の暴走に目まぐるしく翻弄されるしかない。

私が著者にインタビュ ーした際、「就活小説とし ても読めるはず」と言っ ていた。なるほど、CI Aの採用試験の様子が面 白い。微に入り細にわた って不思議な試験の内容 が紹介される。あっけに とられながら読み進める のだが、その度に読者の 予想は裏切られる。

これは地方新聞4紙に 掲載された小説だ。だか らとにかく、1日に1回 は山場を作るという著者 の才気が迸る。エンタメ 小説であるけれど、徹底 した日本政治への鋭い批 判、いわゆるポリティカ ル・ノベルなのだ。いま 世間を騒がせている統一 教会と政治家の癒着を予 感させる記述もある。そ こが小説家の想像力のす ごさ。主人公は囚われる が、なかなかの結末が待 っている。ああ、面白かった!である。(講談社2 750円)      
                           
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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