2022年09月29日
【事件】「いじめ凍死」再調査へ 旭川市 政治力に揺らぐ客観性=山田寿彦
北海道旭川市で昨年3月、中学2年生の廣瀬爽(さ)彩(あや)さん(当時14歳)が凍死体で見つかり、背景にいじめが指摘された問題で、いじめの実態などを調査していた市教委の第三者委員会は12日、最終報告書案を市教委に提出した。遺族側は報告内容に納得しておらず、市長直属の新たな第三者委員会が再調査を行う見通しとなった。遺族側は調査の中間報告が遺族の意向に沿っていないとして、市長の政治力を借りて第三者委員会に中間報告の修正を要求。調査の客観性が揺らぐ事態となっている。
報道によると、最終報告書案は「凍死は自殺」との見解を示したが、いじめとの因果関係が明記されなかったことに遺族側は強い不満を示しているという。
中間報告(4月15日)を受けて遺族弁護団は5月30日付の「所見書」(概要版)を公表。「(爽彩さんの)発達障害を示唆する内容」を問題視し、諮問事項を逸脱しているとして削除を求めた。
さらに「いじめによって発症したPTSDが自殺念慮といった深刻な事態に発展していくことが通常起こりうるプロセスであることは科学的な研究業績によって明らかにされている」と主張。中間報告は発達障害に起因する「衝動性」を自死の原因に結びつけようとしており、「加害者の言い分に偏った事実認定が大部分を占めている」と非難した。遺族弁護団の主張からは自死の原因といじめを結びつけたい意図がうかがわれる。しかし、爽彩さんが不登校になり、精神医療の管理下に置かれた約1年8カ月間の療養生活の経過は全く明らかになっていない。
いじめ防止対策推進法に基づき調査を行う第三者委員会は公平性・中立性・客観的な事実認定を前提としており、被害者側の言い分に偏ることも原則から逸脱する。
所見書に基づき、今津寛介市長は第三者委員会に対し、遺族側の懸念についての回答を求める質問書を出した。
第三者委員会は市長への回答の中で、爽彩さんの(発達障害)特性を記述した理由を「結果的に被害者の特性が加害者に利用された側面が否定できないことから、被害者の特性が現れている事実関係を示す必要があると考えた」と説明した。
中間報告で加害者認定された7人の中には「いじめに関与していない」と訴えた生徒も含まれている。しかし、文科省がいじめ調査に関するガイドラインで定めている加害者側への認定理由の説明は行われないまま、加害者認定された生徒たちはネット上での誹謗中傷にさらされている。
遺族弁護団は中間報告の事実認定のみを根拠に加害者側に法的な損害賠償請求を予告する文書を送りつけており、これも「民事上、刑事上の責任追及を直接の目的とはしない」とうたうガイドラインに反している。
◇
こうした中で、「事件があぶり出した社会の歪みを問う」をテーマにした市民集会(JCJ北海道支部後援)が4日、札幌市内で開かれた。昨年11月に旭川と札幌で精神科医の野田正彰氏を招いて開かれた連続集会と同じ市民有志の主催。
この日の集会では、当局発表と一方の当事者の思惑をなぞるだけの報道(ジャーナリズム)の歪み、精神医療の責任が追及されない不可解さ、「発達障害」乱造の放置など、問われるべき多様な論点が排除されている現状を多角的な視点から問題提起した。
討論で宮田和保・北海道教育大学名誉教授=写真中央=は「本来は事実から価値判断が導き出されるべきだが、旭川の事件を見ていると、価値判断・利益から事実が構成されようとしているのではないか」と指摘した。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
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