夏のジャーナリスト講座は8月21日に「作文術」をテーマに東京新聞の野呂法夫編集員が、同28日に「通信社と海外特派員」の題で共同通信の岩橋拓郎記者がオンラインで講義をした。
カンカラ作文術の
7原則を踏まえて
▼野呂法夫・東京新聞編集委員 私は青森県生まれで、同郷の板画家・棟方志功が「わだばゴッホになる」と言って上京したのにならい、「わだば新聞記者になる」と決め上京した。作文の書き方は毎日新聞・山崎宗次氏が塾長の「山崎塾」で学んだ。山崎氏はNHKドラマ「事件記者」のモデルになった人だ。
山崎氏が提唱したのはカンカラ作文術。「カンカラコモデケア」の7原則を踏まえ作文を書くべしと教わった。
カンは感動、感銘。読み手に感動を与える切り口を考える。カラはカラー、色彩感覚。文中に青や赤といった色を入れる。コは今日性。今、なぜ取り上げるのかを書く。モは物語性。論文ではだめだ。デはデータや数字。説得力が増す。ケは決意。結論で自分はどうしたいのかを書く。アは明るさ。暗い内容の文でも、どこか明るさを感じさせること。アは愛、味、遊びと考えてもいい。例えば犯罪加害者を切り捨てるのではなく、背景にある貧困問題や虐待にも目を向ける愛がほしい。
新聞社の就職試験で課される作文は「私はこんな人物です」と自己をアピールする場だ。自分の「売り」は何か、自身を見つめ、つくっていく必要がある。様々な問題の現場に出かけ体験ルポを書く、あるいは講演会に出て多様な言説から何かヒントをつかむのもいい。それらが「売り」につながる。
誰もが思いつくような切り口は避けて、自分だけのオリジナルな内容の作文を書くこと。論より実体験が大切。決意も肩肘張らず、さわやかにロマンあふれるようにしたい。
海外支局では驚き
と新鮮さ忘れずに
▼岩橋拓郎・共同通信記者 2016年9月から4年8か月間、マニラ支局長を務めた。共同通信は世界41か所に70人強の特派員を配置し、大半が1人支局だ。マニラも1人支局で、年間の3分の1は東南アジアなどに出張する。タフさが必要で「原稿より健康」が大事になる。
海外取材で重要なのは、任地国の事情に通じつつも驚きと新鮮さを忘れないことだ。プロであるとのちょっとしたプライドを持ちながらも、その国の住人と比べたら「素人」であり、やはり「お客さん」であると自覚する謙虚さが欠かせない。
その土地のことを「知っているつもり」になると、記事が書けなくなる。「あー、あのことですか。よくある話ですよ」といった感覚になり、日本人から見たら驚くことを見過ごす恐れがある。
マニラでは自分にしか書けない記事を書くため、可能な限り現場に出かけた。赴任直後の16年末には、フィリピン・中国間で領有権を争っていたスカボロー礁へ木造の漁船をチャーターして出かけた。ルソン島から約200`の沖にあり、片道20時間かかった。そこで漁民を取材し、中国公船を撮影。ひざ下まで水につかりながら、スカボロー礁の上を歩いた。
17年2月にマレーシアの空港で起きた北朝鮮の金正男氏殺害事件では、独自ネタとして日本政府が正男氏の指紋を捜査当局に提供したとのニュースを報じた。
フィリピンの人たちは人生に固定的なレールを敷かず「生きたいように生きている」。同調圧力も感じない。LGBTにも寛容だ。「大人だな」との印象を持っている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
2022年10月21日
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