2022年11月29日

【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】リニアの現場から 工事の足元 見つめ直す 信濃毎日新聞社 島田誠さん

                               
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リニア中央新幹線は東京と名古屋を約40分、東京と大阪は60分余りで結ぶ計画です。中間駅の設置が計画されている長野県の飯田市は大都市圏との交通が非常に不便で、高速バスで東京まで4時間余り、名古屋まで2時間余りかかります。2007年にJR東海が首都圏と中京圏の営業運転を目指す方針を発表した時は、行政も経済界もこぞって計画推進に賛同し、駅の誘致の声が上がりました。

6年前に長野県内で工事が始まると様々な影響が見えてきました。トンネル工事では県内だけで東京ドーム8個分ほどの土砂が出ますが、山間の静かな村を1日数百台の運搬用ダンプカーが通るようになりました。一方、コロナ禍でテレワークも当たり前となり、人々の暮らしも価値観も変わった。このタイミングで、リニア新幹線の工事を巡り足元で何が起きているかを見つめ直そうと連載をスタートしました。
最初に申し合わせたのは、地域、土地に根差して暮らしている人の声を徹底して聞こうということです。取材では500人くらいに話を聞きました。地域特産の干し柿を作る場所がなくなる、建て替えた自宅が駅の候補地になったといった影の部分を、人の体温を伴って感じることができました。

もう1つ着目したのは、リニア計画は(総工費約7兆円のうち)3兆円を政府が貸し出す国策事業で、建設や営業の主体はJR東海の民営事業である点です。国策、民営の両面の性格が都合よく使い分けられていないか、と。象徴的なのが残土の話です。ある処分候補地が、実は土石流の危険があると県が判定していたことが取材で分かりました。問題は、そんな危険性を県もJR東海も地元に説明してこなかったこと。県議会では34カ所の候補地のうち19カ所で土砂災害の恐れがあることが明らかになります。

連載ではその後、相次ぐ労災や、新幹線を上回る大量の電力消費の問題なども取り上げています。建設の遅れは水資源への影響を懸念する静岡県のせいだと一般的に受け止められていますが、長野県でも未解決の問題が沢山あります。工事の遅れは計画自体が抱える問題点の多さの表れではないか。そうしたことを多くの人に知ってもらいたいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 22年度JCJ賞受賞者スピーチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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