噴飯ものの財源論
■国会が閉会するや否や、この1週間、自民党のセンセイ方は防衛費43兆円の財源を巡って、スッタモンダの激論に明け暮れた。国民そっちのけで「新規国債の発行」とか「防衛費1%税の導入」とか、あげくに「復興特別税の転用」とかのたまう。もう「いい加減にしたらどうか」と言いたい。
■岸田首相は「責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民が自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきだ」といった。だが国民は誰一人として、防衛費5年間で43兆円および2027年以降の防衛費「GDP比2%」を認めるプロセスに参加していない。なのに責任を背負されたら、たまったものではない。
「復興税」の転用─その酷さ
■とりわけ「復興特別税」を転用して防衛費に充てる案は噴飯ものだ。東日本大震災後の2013年に創設され、2037年までの25年間、所得税に2.1%分上乗せして年4千億円を徴収し復興予算に充てる。ところが、その半分の1.1%分・年2千億円を防衛費に回すというのだ。しかも時限措置を10年以上も延長する計画だ。
復興税の目的は国民全体で被災地を支えるためである。枠組みを突然変え、命と生活を守り復興に使う税を、命と生活を奪う戦争に使う防衛費に回すのは筋違いも甚だしい。
■さらに防衛費増額の財源に国債の発行を、旧安倍派の議員が声高に主張している。なかでも建設国債の使途を変え、初めて自衛隊施設の整備費に新規発行するという。このような安易な国債発行が進めば、戦前のように軍備膨張の歯止めは効かなくなる。国債で防衛費を賄うことが「禁じ手」とされるのは、この反省に立つからに他ならない。
抑止力≠ナ戦争は防げない
■戦後の「軽武装・経済重視」の道筋を築き、ハト派色が強く保守リベラルの「宏池会」、そこの会長を務める岸田首相の豹変ぶりは、タカ派の安倍派を凌駕し、もう暴走としか言いようがない。
先頭切って軍拡路線を強行し、ついに「敵基地攻撃能力」の保有を明記する安保3文書を閣議決定した。国会の徹底した審議もないまま専守防衛を放棄し、「憲法9条」が滅びる危機に陥れた。
■この危機に際し、憲法学者らによる「平和構想提言会議」が、「戦争ではなく平和の準備を─抑止力≠ナ戦争は防げない」と題する提言を公表した。その主な内容は、防衛力強化がイタズラに周辺国との軍拡競争を招き、戦争のリスクを高めると警鐘を鳴らし、今こそ「憲法9条」が定める平和主義の原則に立ち返るべきだと強調している。
今後、取り組むべき具体策として、朝鮮半島の非核化に向けた外交の再開や中国を「脅威」と決めつけず、アジア諸国との対話の強化を提唱。専守防衛の堅持に基づき米国製巡航ミサイル「トマホーク」など敵基地攻撃能力の保有につながる兵器の購入や開発の中止を求めた。
メディアの政府広報化
■ところがメディアの報道は、「憲法9条」との関係で「敵基地攻撃能力の保持」そのものの是非を問わず、防衛費の財源論に終始する。軍拡はすでに決定事項だと言わんばかりだ。完全に政府広報と化している。岸田首相の記者会見でも、参加できるのは「1社1人」というルールのうえ、再質問は許されない。対等な質疑応答などできるはずがない。
■共同通信がスクープした「防衛省は国内の世論工作に向け、人工知能(AI)と交流サイト(SNS)を使い、インフルエンサーを経由して情報操作するプランを入札企業に発注していた」という報道を基に、メディアは共同して防衛省を追及すればよいのに、それすらしない。これでは「ペンは剣よりも強し」が泣くのは自明だ。(2022/12/18)
2022年12月18日
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