キナ臭さが募る世界と日本
■2月24日、突然ロシアはウクライナに侵攻し、「ウクライナ戦争」が勃発した。以降、ウクライナ市民の犠牲は増え続けている。しかもここにきてロシアは、ヨーロッパ北部を襲う寒波「冬将軍」を利用し、ウクライナの電源施設を爆撃し市民を酷寒の生活に陥れる、許しがたい作戦に血道を挙げている。この10カ月、ロシアの非道な侵攻に、世界中の人々が非難の声を挙げ救援に力を注いでいる。
■日本では、この12月16日、「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書」を閣議決定し、5年間で42兆円、2027年以降は「GDP比2%」の防衛費を計上する。容認した「敵基地攻撃能力の保持」は、「先制攻撃」につながりかねない。
さっそく沖縄・石垣島の市議会が、「敵基地攻撃の最前線になりかねず、ミサイル配備に反対する意見書」を採択した。中国や北朝鮮の脅威を必要以上に煽り、アジア周辺諸国の緊張や不安を加速させている。
■今年2022年を象徴する漢字は「戦」とされたが、まさに「戦争」のキナ臭さが一段と強くなった。いま日本は岐路に立つ。
改めて私たちのプロテストや抗う気概が問われていることを自覚しつつ、年納めに推奨のミステリ1冊と心が癒されるCD1枚を紹介したい。
感動する『真珠湾の冬』
■まず1冊はジェイムズ・ケストレル/山中朝晶訳『真珠湾の冬』(ハヤカワ・ミステリ)である。
1941年、ハワイで白人男性と日本人女性の惨殺事件が起きた。地元ホノルル署の刑事マグレディが犯人を追う。その追跡先の香港で、12月8日、日本軍がハワイ・オアフ島の真珠湾を先制攻撃、太平洋戦争に突入したのを知る。
だが彼は香港で日本兵に捕らえられ東京へ移送されてしまう。そこで運命の人物と出会い、ともに東京大空襲の焼け野原と死が渦巻くなかをさまよう。日本の敗戦を機に帰国するが、あらぬ罪で免職となり、独り再追跡の旅を始め、香港や上海で思わぬ真相をつかむ。
そして<5回目の12月>、たどり着いた日本の野沢温泉、そこに待ち受けたロマンスあふれるラストシーンが胸にしみる。
■しかも、このミステリは「人間の運命」を描く大河ドラマであり、また「戦争と平和」を問う歴史小説でもある。反ファシズムに基づく国際的なエスピオナージの色合いもある、稀有なミステリだ。読み始めたらページをめくる手が忙しくなること間違いない。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞受賞の大作。この年末年始に「おすすめの1冊」。
528ヘルツの「INORI」
■もう1枚はCD、エイコン・ヒビノ「INORI」(TECL-1002)である。この16日にコンサートも開かれた。作曲家でピアニストのエイコン・ヒビノが528ヘルツに調律したピアノと琵琶や三線・二胡などの楽器と共に奏でる11曲が収録されている。同周波数の音楽は癒やしの効果がある。
同アルバムのタイトル曲「INORI」は、音楽の力で幸せな社会になるよう祈る気持ちを込め、奈良・天河大辨財天社に奉納されている。また最終曲「古への架け橋」も二胡の響きを添えオーケストラ編成にアレンジした曲で、奈良・薬師寺に奉納されている。
■この2曲に加え、筆者には奇数に当たる収録曲がいい。琵琶が奏でる調べを取り入れた「あわうみのうた」、丹波の奥にあるミツマタの里を思い浮かべた「みつまたの詩」、ジョン・レノンが感銘を受けたネパールの音による「FIESTA」などだ。
いま部屋に響いているが、どこかで聴いたような淡いメロディのイントロに始まり、琵琶や三線・二胡などの楽器がシンクロして主題を盛りあげる。もうエイコン・ヒビノの作りあげる音空間に、知らぬ間に引き込まれている。ここに文章を綴るキーの運びも滑らかになる。癒しの曲、ありがとう。そして皆さん、良いお年をお迎えください。(2022/12/25)
2022年12月25日
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