2022年12月26日

【オンライン講演】JCJ賞『ルポ・収容所列島』共著の3人が語る  精神医療、収容促す歪み 医療保護入院が問題 風間氏 行政,精神病院を利用 井艸氏 家族が悪用するケース 辻氏=橋詰雅博

                            
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 2022年度JCJ賞を受賞した『ルポ・収容所列島』(東洋経済新報社)の筆者、『週刊東洋経済』編集長の風間直樹(写真上)、東洋経済記者の井艸恵美(中央)、調査報道に特化したNPO法人「Tansa」リポーターの辻麻梨子()の3氏が11月9日JCJオンライン講演会に出演した。日本の精神医療の異常さを語り、多くの視聴者に衝撃を与えた。

女性の手紙で動く

 19年1月編集局内に立ち上がった調査報道部が取材しウエブメディア『東洋経済オンライン』に記事を連載したものをベースにこの本はまとめられた。取材に約3年かけた精神医療の実態に踏み込むきっかけは、編集局に届いた精神科病院に4年近く入院する女性からの手紙だった。この手紙を読んだ2人の女性記者の感想はこうだ。
井艸氏「手紙は文字が丁寧で、書かれた内容も緻密でした。治療は行われていないようで、なぜ長らく精神科病院に入院しているのか不思議に思いました。手紙以外は外部とコンタクトを取れない状態で、受刑者よりも強制されていることに驚いた」、辻氏「旧優生保護法(1948年から96年まで施行)のもとで、精神障害や遺伝子疾患があると決めつけられた方が強制避妊させられた出来事がありました。厄介払いみたいな形で手術されたのですが、これと強制入院は構図が似ています」
 風間さんは彼女と何回か手紙をやり取りした。井艸さんが知り合った精神科患者の支援に熱心な弁護士を介して病院と交渉した結果、退院半年前にようやく面談できた。彼女と会った井艸さんは「面談の部屋は狭い個室。その奥に病棟があり、医師や看護師がいるのだろうと想像しましたが、周りの状況は全く見えません。イメージ通り閉鎖的な空間でした」と話した。単科の精神科病院に入ったのは初めてという風間氏は「最寄りの駅からタクシーで20分ほどの病院は、外来の人の気配がなく、山の中にある。これでは外の目が入る機会がないと思った」という。
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本人の意思無関係

 彼女がなかなか退院できなかった背景に「精神科特有の医療保護入院制度という大きな問題がある」と風間氏は指摘する。この制度について井艸氏は「家族一人の同意と医師の診断があれば、本人の意思とは無関係に人を簡単に精神科病院に入院させることができます。いつ自分の身に起きてもおかしくない」と説明した。辻氏も「本人の意思よりも家族の意思が尊重されるのが非常に問題だと思います。その人を一番理解しているのが本当に家族かと疑問に思う。身内というつながりによって利用されやすい制度です」とその危険さを語った。
 実際、「離婚裁判を有利に運ぶためや財産・子どもの親権目当てに悪用するケースがある」と風間氏は言う。
 精神医療問題では「精神科移送業」という業種が浮かび上がった。民間会社の男たちがある日突然、自宅に上がり込んで人を強制的に精神科病院に連れていく。風間さんは最初それを聞いたとき、都市伝説とかSFの世界のような架空な話ではないかと思ったそうだが、本当の話だった。

民間移送業の実態

風間氏が言う。
 「警備会社がやっている裏仕事≠フようなもので民間救急業と称している。内容が詳しく書かれたパンフレットが精神科病院の受付カウンターに置かれています。4人組とかの警察官OBが本人を羽交い絞めにして強引にワゴン車に連れ込む。5、6時間もかけて遠くの病院に連れていかれるケースもあった。依頼した家族は事前に入院先の医師と話をつけている。家族からの情報がインプットされている医師にいくら本人が説明しても相手にしてもらえず入院に。人権侵害の最たるものではないでしょうか」。依頼主が精神科移送業者に支払うお金は20万円以上が相場だ。
 井艸さんは病院内などでの薬漬けの弊害や児童養護施設・学校で発達障害と診断された子どもたちを落ち着かせるという名目で向神経薬の服用が増加している問題も報告した。
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自治体の判断次第

 精神科病院も行政機関も精神医療の情報開示に後ろ向きだと3氏とも指摘した。とりわけ情報公開の取材に取り組んだ辻氏は「東京精神科病院に加盟する63病院のホームページを調べたところ、医師、看護師の内訳や患者の治療状況が分かるデータを公開していたのはわずか6病院でした。公開していても最低限の情報です」と述べた。全国の精神科病院の現状がわかる唯一の資料は、厚生労働省が都道府県を通じて実施する精神保健福祉調査だ。毎年6月30日の時点での実態を把握するので通称「630(ロクサンマル)調査」と呼ばれる。ところが17年度と18年度の調査が個人情報の保護などの理由で非開示や一部開示だけの自治体があった。私立の精神科病院団体の日本精神科病院協会(日精協)による「圧力」と言われている。19年度以降でも開示を拒む自治体も。その一例はさいたま市だ。「埼玉県は情報開示しているのにさいたま市は一面黒塗り、いわゆるのり弁¥態の資料です。開示できない理由を尋ねても『そう判断した』と答えるだけです。開示するかしないかは自治体の判断、バラつきがあります」(辻氏)
  また井艸氏は「自治体は連携する精神科病院を利用して地域で支えられない面倒な人を入れています。病院だけが悪者ではなく、社会全体にそれを許すムードがあります。もちろん行政側の姿勢も厳しく問われるべきです」と行政と病院の密接な関係に触れた。

「保健所が困る」

精神科医療の総本山である日精協の山崎學会長は、厚労省は言うに及ばず自治体にも強い影響力を持つ。21年7月に放映されたNHKのETV特集「ドキュメント精神病院×新型コロナ」番組内で、山崎会長はこんな発言をしている。
 「精神科医療っていうのは、医療を提供しているだけじゃなくて社会の秩序を担保しているんですよ」「町で暴れている人とか、そういう人を全部ちゃんと引き受けている」「こっちは保安までも全部やっているわけでしょう。(入院を)断ったらどこもとらないし、警察と保健所が困るだけ」
 この山崎会長のコメントについて風間氏は「行政に対する脅しです。保安も担う精神科医療の診療報酬の点数を減らすなど我々に不利なことすると、入院断ります、一番困るのは警察や保健所、わかっていますよね、自治体さんと暗に言っている」と解説した。
 住民にも問題がある。精神科病院の退院者の中には普通の生活ができるグループホームに入る人もいる。この施設を作ろうとすると、危険視するのか反対の声を挙げて施設計画を潰す運動を行う住民もいる。
 風間氏は「結局、収容を容認する日本社会に根深い問題がある」と言い切った。
  橋詰雅博
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号

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