加えて、その費用を含む今後5年間の防衛費を総額43兆円と現行計画の1.5倍以上に増額し、財源を法人、所得、たばこの3税の増税で賄うとして、東日本大震災からの復興に使うための復興特別所得税の流用まで盛り込んだばかりか、戦時国債の発行で軍事費を担保し戦争の遂行に繋がった教訓から戦後は“禁じ手”とされてきた防衛費に充てる国債発行にも手を付けるなどというのは、コロナ禍や物価高騰に苦しむ国民の生活をさらに圧迫するもので到底看過できません。
岸田首相自身が言うように、まさに「戦後の安全保障政策の大転換」です。それが国民的議論はおろか、国会での審議もないまま、一片の閣議決定で実行に移されてよいのでしょうか。衆院広島1区選出の首相の地元紙、中国新聞は17日付の社説で「平和憲法をゆがめるな」と題し、「国民の理解と合意を欠いたまま防衛力強化に突き進むことは許されない。平和国家の岐路である。まずは国会で徹底的に議論するべきだ」と説きました。
他の地方各紙からも厳しい批判の社説掲載が相次ぎました。全国紙も、例えば朝日新聞は「首相は会見で、防衛力強化は『国民の協力と理解』なしには達成できないと述べた。ならば、来年の通常国会を始めとする開かれた場で、自分の言葉で説明を尽くし、必要な見直しを躊躇すべきではない」、毎日新聞は「平和国家としてのあり方をなし崩しに変え、負担を強いる。それでは、新たな安保戦略に対する国民の理解は得られまい」と指摘しています。
多くの有識者からも疑問や批判の声が上がっています。そのうち、憲法や国際政治学者、ジャーナリスト、市民団体代表らでつくる「平和構想提言会議」(共同座長=青井未帆・学習院大教授、川崎哲・ピースボート共同代表)は、政府の安保戦略への対論としてまとめた提言「戦争ではなく平和の準備を―“抑止力”で戦争は防げない―」の中で、こう述べています。
「政府・与党は『抑止力を高める』とするが、実際には戦争のリスクを高める。北朝鮮の核ミサイル開発、中国の軍備増強や海洋進出は重大な問題だが、日本の対応策が軍備増強や攻撃態勢強化ばかりなら、平和的解決は遠のく一方だ。今日の軍事的緊張がエスカレートすれば、戦争は現実となる。東アジアにおける戦争は世界の経済、食料、環境に壊滅的な影響をもたらす。軍事的な『勝利』の想定に意味はない。軍事力中心主義や『抑止力』至上主義は極めて短絡的で危険だ。抑止力は、武力による威嚇に限りなく近い概念。安保論議の中心に据えられている状況は憂慮すべきだ。持続可能な安保のため、抑止力の限界を認識し『抑止力神話』から脱却しなければならない」と。
岸田首相にはぜひ重く受け止めてほしい提言です。
私たちの所属する日本ジャーナリスト会議(JCJ)は戦後、「再び戦争のためにペン、マイク、カメラを取らない」と誓って創設したものです。とりわけ被爆地ヒロシマで活動する私たちは、戦争と平和、被爆者や核兵器をめぐる問題には常に重大な関心を抱き、意見表明や論考の掲出、情報の発信などに努めてきました。それだけに、今回の安保3文書の閣議決定は内容においても手続きにおいても平和憲法を踏みにじるものであり、断じて容認できません。再びこの国をあの戦争の惨禍をもたらす道へと向かわせる岸田内閣の愚挙に抗議し、白紙撤回を求めます。
2022年12月26日
日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部
なお 広島支部は声明を出した翌27日に岸田首相の広島事務所に声明文を届け、地元秘書に対し岸田首相が当該3文書について再考し、当地の有権者、とりわけ被爆者の願いに応える賢明な判断をするよう強く要請し、その旨首相に伝えるよう申し入れました。