10月29日、JCJ沖縄の企画でJCJオンラインシンポ「復帰50年 沖縄のいま・これから 沖縄にとって日本とは何か/ジャーナリズムは何をすべきか」が開催された。1994年から約10年間、沖縄に居住していた作家の池澤夏樹氏(写真下)の基調提言を受けて、JCJ沖縄のメンバーの金城正洋(ジャーナリスト)、黒島美奈子(沖縄タイムス論説副委員長)、米倉外昭(琉球新報論説委員)の3氏が発言した。
質疑応答では、教育の場で古典を含む沖縄の文学をどう活用するかなどが議論された。池澤氏からは、沖縄の文化を世界に発信するサイト「あまくま琉球」のアピールもあった。
日本にも中国にもノーを=池澤夏樹さん
沖縄でも日本でも世界でも、ジャーナリズムにとって大切なこと、それは分断だ。どこの国でも世論が二つに分かれてにらみ合う。理由は簡 単。SNSだ。それを前提としないとジャーナリズムの足元がすくわれかねない。
その上で、沖縄のことだ。沖縄は中国と日本の間にあり、薩摩に搾取され、第二次世界大戦で地上戦になった。沖縄人はそれを忘れていない。
ヤマト(本土)の人たちからすれば、沖縄は米軍基地を置くのに都合がいい。第二次大戦でも役に立った「都合のいい島」。沖縄には、これに対する根源的な憤りの念がある。
沖縄の地理的条件をどう使うか。一番いいのは観光だ。東アジアの航空路のハブにもできたはずだ。また、情報産業なら地理的ハンディキャップがない。そういう豊かな未来図が描けると思う。
辺野古新基地に反対してきた。軟弱地盤は何万本杭を打っても沈下する。しかし、日本政府は自縄自縛で動けなくなっている。やめようと言える人がいない。
ただ、分断していてどっちも硬直化している。その場その場で新鮮な切り口を出してアピールしていかないといけない。冷たい人たち、無関心な人たちにどうやったら伝わるか工夫していかなければならない。
東京の政府は、しっぽを振ったら餌をやるよという、犬に対するような姿勢だ。沖縄はかつて、所得は最下位だけど、数字とは別の暮らしの豊かさがあった。それも思い出しておくべきだと思う。
「台湾有事」で臨戦態勢になりつつある。国防は国の専管事項と言うが、同じ論法で沖縄戦が起きた。ノーという言葉を日本に対して、中国に対しても、突きつけてほしい。
自衛隊の南西展開に危ぐ=金城正洋さん
ロシアによるウクライナ戦争は、大国が隣国に侵攻してくるという現実を見せつけた。そうした中で「台湾有事」をあおる動きが出ている。
南西諸島に自衛隊を配備し、有事の際にはそこで戦う。島々の住民を避難させるためにシェルター建設も出てきたが、それは現実的と言えるのか。
台湾が戦場になれば住民たちは近い先島諸島に避難してくることが考えられる。人口2300万人の台湾から、八重山・宮古島あわせて11万人の島々に避難してきた時、受け入れることができるのか。台湾有事の発想には、そういう現実的な問題への視点が抜け落ちているのではないか。
この間、日本の外交力のなさが目に余る。その結果「防衛力強化」という名ばかりの政策が突出していると危ぐする。
自衛隊の南西諸島への配備は、局地的な戦争を見据えたものだ。「沖縄だから、先島だからいいんじゃないか」という発想が本土側にあるのではないか。
復帰50年の今、沖縄が再び戦場となる危機感が高まっている。
「ねじれ」で構図見えにくく=黒島美奈子さん
直近のニュースを中心に、復帰50年の今の沖縄について考えたい。
「選挙イヤー」の最後を締めくくった那覇市長選は、自公が推薦する知念覚氏が、オール沖縄が推す翁長雄治氏を破った。前回と前々回オール沖縄の支援で当選した城間幹子市長が、知念氏の支援に回る「ねじれ」の中の選挙。「自公対オール沖縄」の構図は見えづらくなり低投票率の要因にもなった。
これまでオール沖縄の勝利の背景にあったのは若者と無党派層の存在だ。しかし那覇市をはじめ今年の七つの首長選での敗北からは、それらが失われたことが分かる。
一方、名護市辺野古の新基地建設反対の民意は健在で、今後は新たな受け皿が必要だろう。
新基地建設への抗議活動を「座り込み抗議」と表現することに異論を呈したひろゆき氏の行動は、「嘲笑」という新たな形のヘイトを私たちに見せた。
これまでと異なるのは意図が巧妙に隠されている点で、ひろゆき氏を擁護する人も多い。複雑化するヘイトへの向き合い方が問われている。
戦争阻止報道に覚悟必要=米倉外昭さん
沖縄が今、取り組むべきこととして指摘されてきたことを三つ挙げたい。
ひとつは、沖縄振興法による国の予算の一括計上方式をやめること。二つ目が、琉球・沖縄史と、しまくとぅば(沖縄語)を学校教育の中に位置づけること。
三つ目が、戦争をさせないために沖縄県が自治体外交に本格的に取り組むことだ。
沖縄のメディアがやるべきこととして個人的に考えていることを述べたい。沖縄の自己決定権確立と戦争阻止のために、これまで以上に踏み込んだ報道・論説を展開しなければならない。特に新聞は経営が厳しくなっている。基地反対の世論も、10年待たずに少数派になるかもしれない。それでも戦争阻止の報道を貫くという覚悟が必要になっていると思う。ネット対応を含め、若い世代に届く、本土に届く報道に挑み続けるしかない。
今年の慰霊の日に向けて「平和の礎」に刻まれた名前を全てリレーで読み上げる取り組みが大成功した。来年もやるという。まだまだできることがある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年12月31日
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