2023年01月14日
【シンポジウム】NHKはどうあるべきか 報道姿勢に不信高まる 鈴木氏 対立点伝えず印象操作 上西氏 経営委は政権の隠れ蓑 前川氏 「コモン」であるべきだ 金平氏=諸川 麻衣
12月1日、都内でシンポジウム「公共放送NHKはどうあるべきか〜市民による次期NHK会長候補・前川喜平さんと考えるメディアの今と未来〜」(=写真=)が開かれた。元文部科学事務次官の前川喜平氏を次期NHK会長候補に推す「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」が主催したもので、パネリストは前川氏、ジャーナリスト・早稲田大学客員教授の金平茂紀氏、法政大学教授・国会パブリックビューイング代表の上西充子氏。元NHK放送文化研究所主任研究員で次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏が報告者として加わり、武蔵大学教授・元NHKプロデューサーの永田浩三氏の司会で約3時間にわたってNHKの現状と将来を論じあった。
第一部「NHKのニュースがおかしい」では、鈴木氏がゴールデンタイム(G帯)の総個人視聴率などのデータから、2021年下半期以降G帯でNHK離れが進んでいることを示した。その要因として同氏は、官邸が「ニュースジャック」を狙って首相の記者会見をG帯に設定したこと、学術会議問題報道や聖火リレーの音声カットなどでNHKの報道姿勢への不信が高まったことなどを挙げた。上西氏はそれを受けて、NHKの国会報道は主語がすべて政府側で、野党の質問・追及や対立点を伝えず、キーワードを隠し、「報じないことで印象操作をしている」と具体例を挙げて批判した。金平氏は、ウクライナで戦地から実態を伝えたBBCとすぐに退避したNHKとを比較。前者には現場を見てきた者を信じる姿勢があり、それがデモクラシーにつながると述べ、NHKは「国営放送」ではなく社会的共通資本=コモンズであるべきだと主張した。
第二部「NHKの組織と制度のどこに問題があるのか」では、鈴木氏が「@国会による予算承認 A経営委員会が会長を任命 B首相が経営委員を任命」という放送法の規定が政権党に弱い構造を生んでいるとし、10年単位の受信許可料を設定し、さらに政府から独立した委員会が運営を審議するBBCとの違いを指摘した。前川氏は、経営委は合議制によって政権の直接関与を退ける仕組みのはずだが、現実には官邸の「任命権」乱用によって政権の隠れ蓑化している、経営委員の選出に何らかの新しいルールが必要だと提起した。上西氏は、NHKの報道内容への批判から進んで、その背景にある組織・人事の問題に市民の関心を向けてゆくことが大切だと述べた。
第三部は「公共放送・公共メディアはいかにあるべきか」。鈴木氏は、今後は「放送」ではなくネット・メディアの時代になるが、NHKは(この点でもBBCと対照的に)自らビジョンを示さず、現行制度への代案がないと指摘、今後NHKに求められるものとして、重要な情報がやりとりされる「コミュニティ・メディア」、オンデマンド、ピンポイント、「自分ごと」を挙げた。前川氏は、NHKは生涯学習の場として博物館・図書館・公民館と同じ役割を持つ、特に「さまざまな意見の人が集う場」として公民館的機能が大切だと述べた。金平氏は、金儲けを度外視してでも出さなければならない番組がある、資本の論理で効率化を進めると取材する人材がいなくなると、地方紙がなくなって地域が衰退してきたアメリカの例を引いて強調した。
その後の質疑も通して、この機会に会長選考過程を可視化させ、NHK問題への関心を広める必要がある、市民サイドの「影のNHK会長」の下で改革ビジョンを提起し続けてゆくことも意義がある、との意見が出された。放送からネットへの移行は世界どこでも海図のない手探りの探求だが、政府への隷属、資本の論理への屈服には未来がないことは、このシンポジウムで明瞭になったと言える。
推薦運動は続く
前川氏の推薦運動は、ネット署名と紙署名合わせて11月30日までに44019筆が集まり、NHK経営委に提出されたが、ネット署名は次期会長が決定するまでさらに続けられることになった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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