河野太郎デジタル相が10月に突然打ち出した「24年秋の健康保険証廃止」に反対する動きが活発になっている。政府は国民のほぼ全員が持つ保険証をマイナンバーカードと一体化し、カードを半強制的に取得させようと目論む。強引な進め方への批判とともに、医療情報の取り扱いへの危機感が募る。
「そもそもカードの取得を強制することは法律違反」「法治国家としてあり得ない暴挙だ」
11月17日と21日に国会議員会館で開かれた反対集会には怒りの声が渦巻いた。開業医らが加入する全国保険医団体連合会や日本弁護士連合会(日弁連)などが主催した。
マイナンバー法は「申請に基づきカードを発行する」と定める。「強制」や「義務」ではないと政府も国会で明言してきた。健康保険料を払っている人が保険診療を受けるのは当然の権利。任意であるカードを取得していないという理由だけで受診に不利益が生じれば、人命にもかかわる重大な人権侵害だ。
6月に閣議決定された骨太方針も、保険証を廃止する場合でも「申請があれば保険証は交付される」と明記している。
さすがに岸田文雄首相も河野発言のわずか11日後に、カードを持たない人が保険診療を受けられるよう「新たな制度を用意する」と国会で答弁した。集会では「新制度をつくるくらいなら今の保険証を存続させれば良いだけの話で予算の無駄遣いだ」と非難された。
「政府はマイナンバーカードを取らせようと脅しをかけている」との見立てにも共感が集まった。カード取得などへの最大2万円分のポイント付与に1兆8千億円もの予算を組んだのに、取得率は5割強。来年3月までに全国民所持との目標達成は不可能だからだ。
その意味でマスコミが河野発言を「事実上のカード取得義務化」と報じたのは政府の思うつぼだった。義務化は違法で法改定のハードルも相当高いと分かっているからこそ、政府は「カードを取らないと保険診療が受けられなくなる」というムードを広げようとしているのだから。
保険証を発行する保険者は集会で、マイナンバーカードには健保の連絡先が記されていないので届け出・申請に漏れや遅れが起きることを不安視した。子どもが修学旅行に保険証としてカードを持参するようになれば紛失が心配される、といった問題点も指摘した。
保険証廃止に先立ち、医療機関と薬局に対してマイナンバーカードを保険証として使う「オンライン資格確認」のための設備設置が来年4月に義務化される。だが、すでに導入した診療所では患者の利用がほとんどない、との報告もあった。
むしろ懸念されるのは医療情報の漏洩だ。院内の電子カルテとつながる新システムは診療時間中、外部と回線で接続するので、サイバー攻撃に遭う危険が高まるのだ。機器管理の負担も重く、廃業を考えている高齢の開業医もいるそうだ。
実は6月の骨太方針には「全国医療情報プラットホームの創設」が盛り込まれている。電子カルテ、電子処方箋などの医療情報を収集して一元管理し、民間もデータを利活用できるようにする構想だ。その基盤にされるのが今回の保険資格確認システムである。危うい企みが仕込まれている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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