防衛費GNP2%、「敵基地攻撃能力」整備、軍需産業育成…、立て続きにニュースが流れ、軍事増額・強化路線が本格始動している。
メディア取り込み
この「流れ」のスタートとなった首相の諮問機関「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の顔ぶれは、マスコミ3、金融2、技術系学者2、それに右翼の論客、元駐米大使という構成だ。初めから「防衛力増強」を目指し、メディアを巻き込み、世論操作を狙っていたことが露骨に見て取れる。
メディアから参加したのは、朝日新聞の元主筆で「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の代表・船橋洋一氏のほか読売新聞グループ本社代表取締役社長・山口寿一氏、日本経済新聞顧問で日本経済研究センター代表理事・会長の喜多恒雄氏。船橋氏は退職してからも発言している言論人だが、他の二人は現役の役員だ。
政府の審議会や諮問機関に専門の新聞記者がその知識や識見を買われ参加することには、古くからの議論がある。
「専門性を発揮して政府に働きかけるのも責任だ」などと言われる一方で、審議会などへの参加は、その結論がいかにも社会的に公正で妥当だ、だと見せかけるための道具にしかされていない、という意見が根強くあるからだ。
内実に問題あり
政府機関については「国語審議会でも参加すべきではない」という主張もある。まして国論を2分3分する防衛問題では一層問題だ。しかもこの有識者会議の議論については発言要旨は発表されたが個人名は伏せられている。
そもそもこの「会議」は、防衛力を単に軍備でみるだけでなく、総合的な経済・社会体制の中に位置づけ、「総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方」を検討するとうたっている。しかし、その内実は防衛力についての憲法上の位置や、外交による紛争解決の準備についての議論等は一切抜きの会合でしかない。
言いっぱなし会議
はじめから憲法論抜き、財政論抜き、外交論も抜き,という組織で、その成り立ちも実は何の「権威づけ」もないままという代物だ。
有識者会議は9月30日、10月20日、11月9日の3回討議、11月21日には報告書がまとめられた。 報告書は、日本周辺が「厳しい安全保障環境」にある、ということを口実に、@相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有A軍事力強化の財源として「国民負担」の必要性B5年以内に防衛力を抜本的に強化する―との方向性を打ち出した。さらに、米国の核戦力を含めた「拡大抑止」や、自衛隊基地の共同使用など日米の「共同対処能力」の強化をうたっている。
今回の提言では、このために縦割りをなくはした総合的の防衛体制の強化が必要だとして、@研究開発A港湾などの公共インフラBサイバー安全保障―について、連携強化を主張している。
問題をそらす
この状況にメディアの社説は、読売、産経などを除いた各紙が「倍増ありき再考求める」(東京30日)、「規模ありき理解得られぬ」(神戸2日)「専守防衛の空洞化は許せぬ」(朝日2日)、「専守防衛の形骸化憂う」(東京3日)、「専守防衛の形骸化を招く」(毎日3日)など、岸田政権が唐突に打ち出してきた軍拡推進政策に対して、一応は批判的な主張を展開した。
しかしそのメディアも政府・自民党側が「増税か」「国債か」と財源問題に焦点をそらし、軍拡そのものの目的や危険性について棚上げしようとしている状況に対しては、見て見ぬふりで無抵抗だ。
軍需産業育成から、サイバー攻撃まで網羅するという公然化した「軍事国家づくり」は専守防衛はおろか、戦後の日本が積み重ねてきた憲法に基づく非戦「平和主義」を根底から打ち捨てることに他ならない。日本のジャーナリズムはこれでいのだろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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