2023年01月28日

【22読書回顧】―私のいちおし 助力者としての男性像とは=谷岡 里香(メディア総合研究所所長)

                         
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 『新しい声を聞くぼくたち』(講談社)の著者河野真太郎氏は、異性愛者の男性で、大学教員で健康な肉体を持つマジョリティの一人である。そうした自身の社会的階層を自覚した上で、男性間にある階級や障害等の横断的な交差性(インターセクショナリティ)を多くの事例を基に解説する。 
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  新自由主義とグローバル化の中で社会の至る所で分断が見られる現在、マジョリティである「ぼくたち」はどういう声に耳を傾けると良いのか。筆者は国内外の映画を題材に男性性の生き残り戦略として「助力者」という言葉をあげる。この点は自身の弱さを認め仲間の力を得て成長する男性像に共感が集まることと呼応している。
 「イクメン」の危険性にも言及する。子育てに熱心な父親は女性差別意識が高い。「イクメン」は自己管理能力を重視する新自由主義の申し子という側面も持つのである。
  筆者はゴールに「ケアする社会」を置く。超高齢社会にあって他者への正しい依存も許されず、市場からの脱落は「自己責任」と烙印を押される時代にあって、「助力者」や「ケアする社会」は成熟を思わせる。マジョリティの男性が男性性を考えることは社会を変えることに繋がっている。

 山口智美・齋藤正美・荻上チキ著『社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)が発行されたのは2012年であるが、今年電子書籍版が出た。本書は、フェミニスト側の著者たちが、反フェミニズム運動(世界日報社は最も恐れられた組織である)の複数の中心人物に直接会って対話をした記録である。
 21世紀初頭のバックラッシュ時、ジェンダーを敵視する側の運動を、組織的犯行と筆者も思い込み恐怖を感じていた。しかし実際は、地域で誠実に活動し信頼を得た上で反対運動をしている人物が複数いた。保守の地道な草の根運動に対して、フェミニズムのそれはどうであったか。
 改めてジェンダー問題の足元を批判的に見る機会を与えてくれる一冊。

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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