侍ジャパンの14年ぶりの優勝
■WBC参加20カ国の頂点に立った侍ジャパン、おめでとう! この2週間、野球中継に釘付けとなった。とりわけ米国との決勝戦、侍ジャパンが1点リードした9回裏、リリーフで登板した大谷翔平投手の劇的な投球は、今でも目に残る。
■大谷投手は、米国の最強スラッガーでエンゼルスの同僚でもあるマイク・トラウト外野手に、フルカウントから投げたスイーパーが大きく横に曲がり、思わずトラウトはバットを出し三振、ゲームセットとなった。歓喜にあふれる選手たちの映像に、我ながら感極まった。
WBCが抱える課題
■新聞各紙も号外「侍J 世界一奪還」を発行、27日には『WBC2023 メモリアルフォトブック』(初版3万部 世界文化社)が発売される。優勝セールも予定される。その経済効果は600億円に及ぶという。
■WBCによると4プールに分けた1次予選の観客数は前回大会から倍増、大会史上最多の101万人、準々決勝からのトーナメント7試合だけでも観客数は30万人を超える。
だが<WBCは世界的人気イベントになれるのか?>と、いち早く問題提起する東京新聞3面総合欄「核心」(3/23付)の米フロリダ州マイアミ・浅井俊典さんの記事は注目していい。
■その要旨をまとめてみると、「WBCを主催する米国大リーグ機構(MLB)の米国優先の運営には課題も残った。…米国が全試合を自国で戦った半面、準決勝で米国に敗れたキューバは台湾、日本、米国と3会場の移動を強いられた。…
また米国大リーガー選手はケガに備えた保険加入が必要とされ、メジャー通算197勝を誇る米国のカーショー投手らは保険加入が認められず不参加。いかにWBCを米国リーグの利益に結び付けるかに重きが置かれているとの声を紹介」している。
韓国メディアも「WBCで使う公式球は米国ローリングス社製とし、試合の開始時間の不公平や決勝戦の日程変更など、金儲けを優先し米国の意向に沿った運営の問題点を指摘」している。
なぜ野球の人気が落ちるか
■米国大リーグ機構(MLB)が、WBCの運営に躍起となるのは、そもそも野球に対する人気がガタ落ちで、野球好きは米国内でも11%、30歳以下ではわずか7%だ。自国ファンをつなぎ留めるには、WBCの開催が欠かせなかった。
■なぜ人気がないのか。まず野球をやりたくとも、グローブ、バット、プロテクターなど、道具を用意するのに思いもよらぬ金がかかる。戦後のひもじい生活を送った筆者には、子供時代にはグローブすら高くて買えなかった。野球はお大尽の子がやるもの、貧しい子は道具が要らず、ボール1つあればプレーできるサッカーだった。
■今でも野球の道具は高いし、ホームベースの裏側にネットを張った専用グランドが必要だし、ボールだってバカにならないほど使う。聞くところによると、1試合平均10ダース(120球)、多い時は180球も使われるという。
プロ野球では一度土に触れて交換した球は二度と試合では使わず、練習球になるという。1球2,648円(税込み)もする。さらに試合時間も4時間を超える場合がある。これほどの経費と時間を要するスポーツはない。
FIFAのサッカーW杯運営
■これでは野球の人気が衰えるのも無理はない。日本における野球の競技人口は730万人、サッカーの競技人口は750万人と並ぶが、世界で見ればサッカーは2億6千万人、野球は3500万人。サッカーの競技人口・人気は圧倒的だ。
■サッカーの最高峰ワールドカップ(W杯)は、FIFA(国際サッカー連盟)が主宰する。そこには国際連合の加盟国193よりも多い世界各国211のサッカー競技連盟が加わる。世界各地のサッカー選手が、各レベルの予選を勝ち抜き、母国の誇りを胸にW杯の頂点を目指して、しのぎを削る。その魅力は計り知れない。
■昨年のサッカーW杯では、スペインとの予選で三笘薫選手がゴールラインギリギリのボールを拾った「三笘の1ミリ」で逆転勝利。今回のWBCでも源田壮亮内野手が、メキシコ戦で盗塁を防ぐ「源田の1ミリ」が話題となった。だがWBC は米国大リーグ機構(MLB)の1組織が主催するイベント。サッカーW杯に適うわけがない。
サッカー並みの人気へ
■世界レベルのWBCにしていくには、アフリカ、中東、東南アジア諸国に野球コーチや講師を派遣し、チームを作って参加できるようにする努力が欠かせない。米国のMLBが、それを担う覚悟があるかどうか。
実際は「試合が長過ぎる」といった声に対応し、スピーディーな展開を目指す、投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」「極端な守備シフトの禁止」「ベースサイズの拡大」などのルール改定で終わるのが関の山かもしれない。
■侍ジャパンの優勝を機に子供たちの野球への関心が高まっている。日本野球機構もリトルリーグへの支援を始め、東南アジアの子どもたちに野球道具をリメイクして送るなど、コーチの派遣も含め具体化すべきではないか。
それにしてもメディアの“はしゃぎ過ぎ”、こうも「侍ジャパン礼賛」の洪水報道が続いては、少し怖くなる。(2023/3/26)
2023年03月26日
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