2023年04月02日

【今週の風考計】4.2─教科書に載る「愛国心」のウサン臭さに気を付けよ

ますます強化される教科書検定
<ピカピカの1年生>が、胸ドキドキ夢いっぱいにして学校へ通ってくる。誰もが健やかに伸び伸びと学んでほしいと願う。その大切な基礎となる教科書が大きく変わる。来年4月から小学校で使われる教科書の検定結果が公表された。
文科省は、5年前から特別教科となった「道徳の教科書」について厳しく精査し、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の項目をめぐり、「扱いが不適切」との意見を教科書会社に注文づけた。その数は13件にもおよび、過去2回の検定と比べ大幅に増えている。
 ただし、どこが不適切かについての具体的な指示は出さず、教科書会社の自主的な判断と修正にまかせ、文科省は手を汚さず、アウンのうちに「愛国心」教育をより強化する道を整えた。

「和菓子屋」から「地元のあんこ屋」へ
本来、道徳は強制的に押しつけるものではない。本人の内心から自主的に身に着けていくものだ。「伝統と文化の尊重」だからと言って、小学2年生の教科書では、急に「地元のあんこ屋」を持ち出し、昔からある食べ物や味を大切にしようなどとは苦笑してしまう。実際、身近に「地元のあんこ屋」など、あるだろうか。いや「あんこ」そのものが嫌いな子は多い。ピザのほうがいいのだ。
前の検定では「郷土愛」を扱う部分で、文科省の指摘により「パン屋」を「和菓子屋」に換えた教科書があったが、今や小学校の全教科書にQRコードがつきデジタル対応するのに、教科書の題材がガラパゴス的な懐旧の復活とも思えるものでは、子どもからソッポを向かれ、いかに苦労して教えても身につかないのは必定だ。

沖縄戦から消える日本軍による虐殺
沖縄戦についてはどうか。小学6年生用の社会科教科書を扱う全3社とも、「集団自決(強制集団死)」に触れたものの、日本軍による「強制・関与」や「軍命」の記述はなく、「アメリカ軍の攻撃で追いつめられ」といった説明しかない。
 これでは沖縄戦の実態が伝わらない。日本軍が沖縄住民にスパイの嫌疑をかけ虐殺に及んだ行為だけでなく、捕虜となることを禁じた「戦陣訓」にまで触れて、その実相を伝えるべきだ。あわせて戦前・戦中の軍国主義教育についても記述すべきではないか。
先月28日には、沖縄・渡嘉敷村が主催する「集団自決」などの犠牲者を弔う慰霊祭が4年ぶりに開かれた。生存している古老から、自決をめぐる生々しい話を聞いている子どもたちは、この教科書のゴマカシを見抜くに違いない。
その時々の権力に都合の良い記述に変える教科書では、歴史的経過や真実からもカケ離れ、他国からも信用されなくなるのは必定だ。さっそく韓国は韓国の立場で、島根県の竹島を「日本固有の領土」と明記した検定を非難している。また朝鮮人労働者の強制徴用についても、朝鮮人が自主的に応じた「日常的な労務動員」とする記述に、怒りの声を挙げている。

「はだしのゲン」などが削除される真の理由
78年前の太平洋戦争で、米軍の原爆により未曾有の被爆死傷者を出した広島。その広島市教育委員会が、あろうことか市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から漫画「はだしのゲン」を削除する方針を決めた。
 さらに米国のビキニ水爆実験で被爆した静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の記述もなくすというのだから呆れる。
「はだしのゲン」は<漫画だから実相が伝えられない>とか<第五福竜丸は被爆の記述にとどまり、被爆の実相を確実に継承する学習内容にならない>などの理由を挙げている。
 漫画「はだしのゲン」や第五福竜丸の被爆は、まさに米国が人類にもたらした「核」の実相を世界の人々に明らかにし、「核」を行使した責任を問う歴史的教材ではないか。これまでの日米関係は、米国の加害責任を免罪するため、いかにして矛先をそらすか、その工作に腐心してきた歴史だとも言える。
岸田首相は「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書の改訂」から「敵基地攻撃能力の保持」「軍事費GDP比2%」への仕上げとして、5月に地元の広島で開催する「G7サミット」に備え、米国の「核」への批判を封じるべく、広島の「平和教育の教材」から削除したのではないか。
 教科書の検定にしろ、平和教材の選別・排除にしろ、時の政府の見解および意向に沿った内容に仕向ける手段と化している。昨年JCJ大賞を受賞した斉加尚代さん監督のドキュメンタリー映画「教育と愛国」は、その鮮やかな検証である。(2023/4/2)
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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