岸田政権は2月10日、次世代原発への建て替えを含む新増設や、運転期間延長を盛り込んだ原発の基本方針を閣議決定した。私たちはこの決定が、人事をテコに学問・研究全体を統制下に置こうと狙う学術会議改変」と同様、安倍政権以来の戦後政治の大転換と連動することを見すえる必要があろう。
民意無視の大転換
閣議決定された基本方針は、@原発再稼働推進に向け、再生可能エネルギーや「脱炭素」への動きを最大限活用、A老朽原発の60年超の運転を可能化、B廃炉を決めた原発敷地内での立て替えを具体化、C次世代型原発の開発・建設への取り組み、D高レベル放射性廃棄物の最終処分地決定に向けた文献調査を受け入れた自治体支援、Eエネルギー基本計画を踏まえ、必要な規模で原発を持続的活用―など。これは3・11に学んだ国民の意思に背を向けた大転換に他ならない。
議論なき危機便乗
「フクシマ」は、米のスリーマイル島(1979年3月)、ウクライナ(当時ロシア)のチェルノブイリ(86年4月)に続く世界的な大事故だ。日本が最悪の悲惨を免れたのは偶然だった。世界では事故後、ドイツが「脱原発」に転換、英国、スウェーデンなども原発新設再検討に動いた。日本では「脱原発」の世論が広がり、事故後の12年、政権復帰した安倍政権も「依存度を可能な限り低減」と明記した。
だが、岸田内閣は地球温暖化の「脱炭素」や、ロシアのウクライナ侵攻で生じた欧州のエネルギー危機に便乗。原発の使用年限や新増設規制などを撤廃し、原発の電源構成比率を2030年に20〜22%(20年3・9%)とした。この動きに、新聞各社は、読売、産経、日経が賛成。朝日、毎日、東京が反対と二分した。
メディアの役割は
東京新聞の「原発転換、実現に疑問」(22年8月25日記事)は諸課題を指摘、@新増設の次世代原子炉技術は未確立、A既存原発の運転期間延長は危険、B既存原発再稼働への地元の反対―を挙げる。
問題は岸田政権の閣議決定が、課題と真摯に向き合っていないことに、及び腰のメディアだ。
「大転換」に関して昨年12月実施したパブリック・コメントで3966件の意思が寄せられ、多数が反対だったが、大きく報道したのは1社のみ。2月8日、原発の60年超延長に向けた原子力規制員会は委員5人のうち1人が「安全側への改変と言えない」と新制度案に反対。13日、異例の多数決で決定したが、8日の議論をきちんと報道したのも1社だけだった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
2023年04月04日
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