2023年04月29日

【月刊マスコミ評・放送】安倍政権「負の遺産」が明るみに=岩崎貞明

 安倍政権の「負の遺産」がまた一つ明るみに出た。立憲民主党の小西洋之参院議員が放送法の政治的公平性について、安倍政権下で首相官邸側と総務省側でやりとりした内容を示す政府の内部文書とされる資料を公表した。政府は当初、文書の信憑性に疑問を投げかけたが、3月7日に松本剛明総務相が同省の行政文書であることを確認。2014年から15年にかけ、当時の礒崎陽輔首相補佐官らが、番組の政治的公平性をめぐる放送法の解釈について、総務省側に解釈の変更を執拗に求めた過程が詳しく記されている。

 2014年と言えば、当時の安倍晋三首相が11月18日夜に生出演したTBS系『NEWS23』で、アベノミクスの効果に疑問を示す街頭インタビューをめぐり、「選んでいる」「おかしいじゃないですか」などと反発。それから間もなく、当時の萩生田光一自民党広報局長名で、NHKや在京民放テレビ5局の報道局長・編成局長あてに、選挙報道の「公平中立」を求めて番組出演者の選定やインタビューの編集まで、番組制作の手法にまで詳細に立ち入って注意を促す文書が示されていた。

 今回明らかになった文書は、やはり2014年11月、礒崎補佐官がTBS『サンデーモーニング』を名指しして「コメンテーター全員が同じ主張の番組は偏っているのではないか」と、総務省側に対策を求めたことからやりとりが始まっている。文書では、難色を示す総務省幹部に対して礒崎氏が「局長ごときが言う話ではない」「この件は俺と総理が2人で決める話」「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」などと、恫喝発言を繰り返している。総務省出身の山田真貴子首相秘書官は「今回の話は変なヤクザに絡まれたって話ではないか」「どこのメディアも萎縮するだろう。言論弾圧ではないか」と懸念を表していたが、結果的には強引に辻褄を合わせるようにして、官邸の横車が通ってしまう形となったのだった。

 総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は自身の発言部分について「ねつ造」と全面否定、国会論戦は文書の真贋論争に終始している感があるが、問題の本質は政権による放送メディア弾圧の実態である。そもそも、番組の政治的公平性を政府が判断できるとする考え方そのものが、表現の自由を保障した憲法・放送法に抵触するのではないか。ここはやはり、世界の常識である放送の独立行政機関化を改めて議論すべきだ。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
  
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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