安倍政権下の2014年から15年にかけて、当時(安倍内閣)の礒崎陽輔首相補佐官が放送法の解釈を変えさせようと総務省に圧力をかけていた状況が、総務省の内部文書で明らかになった。
3月2日、小西洋之参院議員(立憲民主党)が記者会見して、これを明らかにした総務省文書を発表した。総務省もこの文書を「行政文書」と認め、7日ホームページで公開した。
文書によると磯崎氏は「1つの番組でも明らかにおかしいものがある」「コメンテーターが『あすは自民党に投票しましょう』と言ってもいいのか」と働きかけ、「この件は局長ごときが言う話ではない。俺と総理と2人で決める。俺の顔を潰すようなことになれば、ただではすまない。首が飛ぶ」などと発言、「補足説明」を出させた。
解釈変更を迫る
放送法は「不偏不党・真実と自律の保障」を決め「表現の自由」を確保すること(第1条)を決め、誰からも「干渉」「規律」されてはならず(第3条)、編集では「公序良俗」とともに「政治的公平」と「事実を曲げない」「対立している問題ではできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」(第4条)よう決めている。この「政治的公平」は個々の番組の中での公平性を求めているのではなく、ある放送全体のバランスを求めていると解釈されている。
磯崎氏の「解釈変更圧力」は、これを個々の番組にも及ぼさせようとするもので、磯崎氏の発言に符合するように放送への「圧力事件」が続いた。
続出した「圧力」
磯崎氏の総務省への要請はちょうど、14年12月の総選挙直前から。
当時の安倍首相は11月18日、TBSの「NEWS23」で街頭インタビューの映像に政権批判が多いとして「全然声が反映されていない」と反発。20日には自民党が在京テレビ各社に「報道の政治的公平を求める」とする文書を出すなど、放送への圧力を強めていた。その「背景」が明らかにされた形でもある。
こうした中で、15年5月、安倍内閣の高市早苗総務相(当時)は参院総務委員会で、「政府のこれまでの説明を補足する」と断りつつ、「1つの番組だけでも、極端な場合には政治的に公平性を確保していると認められないことがある」と発言、16年2月の衆院予算委でも「行政が何度要請しても全く改善しない放送局に何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性が全くないとはいえない」と答弁。「電波停止発言」として問題になった。
18年3月には政府の規制改革推進会議が放送法4条の廃止を盛り込んだ「放送事業改革原案」を作成。反対で立ち消えになっている。
自由へ闘い続く
安倍内閣の官邸が、各社の番組をモニターし、さまざまな形で圧力をかけてきたことは比較的よく知られている。この文書当時大きな話題になったのは、「サンデーモーニング」への攻撃は、TBSの株主総会などでも行われていたが、16年3月には、テレビ朝日の「報道ステーション」古舘伊知郎キャスター、NHKの「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターが降板するなどの「事件」もあり、「放送の自由」をめぐる闘いは今なお続いている。
高市経済担当相「捏造」と強弁するが
総務省が「行政文書」と認めた「放送法の解釈変更圧力」について、高市早苗・経済安保担当相は3月3日の予算委員会で、問題の総務省文書について、「ねつ造」と決めつけた。
「仮にこれがねつ造でなければ議員を辞職すると言うことでよろしいですね」と追及する小西洋之議員に「結構ですよ」と応じた。
その後、総務省が「行政文書」と認めてホームページで公開すると「私について書かれた4枚については捏造。相手様が証明しなければ」などと弁明していたが、10日には「当時総務大臣だった私としては、一部正確性が確認されていない文書が保存されていたと言うことは責任を感じます」と陳謝した。
大臣と議員の辞職については、「内容が不正確」で逃げ切れるかどうかわからないが、野党側はいまなお高市氏の再回答と磯崎氏らの参考人招致を求めている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
2023年05月13日
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