2023年05月19日

【出版界の動き】「紙の本」を扱う新しい試みへの期待=出版部会

●23年3月の出版物販売金額1371億円(前年比4.7%減)、書籍905億円(同4.1%減)、雑誌466億円(同5.7%減)。月刊誌398億円(同5.0%減)、週刊誌67億円(同10.1%減)。返品率は書籍25.6%、雑誌39.6%、月刊誌38.7%、週刊誌44.2%。

●丸善グループ(子会社47社・関連会社3社)の連結決算によると、売上高1628億円(前期比78億円減)、当期純利益17.7億円(同18.3%減)。主要な部門の売上高は丸善ジュンク堂などの「店舗・ネット販売事業」663億円、丸善雄松堂の「文教市場販売事業」が480億円、TRCの「図書館サポート事業」337億円、岩崎書店や丸善出版などの「出版事業」41億円。
 丸善ジュンク堂などの108店舗は赤字、TRCなどの図書館事業で利益が計上されている。

●民事再生のマキノ出版がブティック社と資産譲渡契約を締結。ブティック社がマキノ出版の雑誌、書籍、ムックの版権およびウェブサイト事業を引き継ぐ。月刊誌「壮快」と「安心」を6月下旬からそれぞれ隔月刊として発行。ブティック社は、月刊誌「レディブティック」やニット、手芸、料理、園芸、ネイル、ビーズ、住まいなど、実用書を出版している。

●俳優・音楽家がAIのもたらす権利侵害などについて危険性を訴える。俳優や音楽家らでつくる日本芸能従事者協会は、AI(人工知能)によって芸術・芸能の担い手が失職する可能性を指摘し、権利擁護の法整備を求めた。実演家は「著作物の伝達」に重要な役割を果たしているため、著作隣接権で守られている。それが侵される危険性を指摘している。

●『レコード芸術』(音楽之友社)が7月号で休刊。1952年創刊のクラシック音楽界の重要なメディア(発行部数10万部)が消滅する。ヤマハの子会社となっていた音楽之友社にもかかわらず、苦境に追いやられていた。また日本棋院が発行する唯一の週刊専門誌『週刊碁』も9月に休刊。ピーク時20万部も今や2万部まで激減。

●「本屋と紙の本の未来」について、吉永明弘・法政大学教授(環境倫理学)が提言(「SYNODOS」5/15付)をしている。要約すると、以下のような内容である。
 紙の本に対する電子書籍の割合が増えたことにより、リアルな「本屋」の存在意義が問われ始めている。その一方で、新たにリアルな「本屋」を始める人たちがいる。また、新しい形で「紙の本」をやりとりする場所が各地で生まれている。新しく本屋を始めた人たちの思いと、紙の本をやりとりする現代的な意義を再確認すべきだ。
 例えば日本各地で開かれている「一箱古本市」は、まさに個人がお寺・神社の一角を借りて、段ボール一箱分の本を個人が売る本屋を開く試みである。本を売ることを通じて本好きの人たちと交流するのが一つの楽しみになっている。
 あるいは個人が本屋のなかの「棚」を借りて蔵書の貸出と販売ができる本屋スペースを運営する。また自宅を開放して「八畳一間と玄関土間だけの小さな古本屋」にする。客が減少したスナックに古本屋を開設する事例もある。こうした既存の建物を利用しての「本屋」の試みは、きわめて有効なエコ活動でもある。
 リアルな「紙の本」を直接やりとりする「本屋」は、人との出会いを強め、交流が始まり、さらにはコミュニティの拠点としての機能も持つ。その可能性への期待は大きい。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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