緑豊かな山麓に白く浮かび上がる陸自石垣駐屯地=1月28日、菊地正志撮影
石垣島は亜熱帯の自然と都市が調和した日本有数のリゾート地。戦後70年以上にわたり軍事基地がなかった。そんな平和の島にミサイル基地が開設された(3月16日)。「島を戦場にするな」。軍事要塞化に抗する市民たちは今も声を上げ続けている。
石垣島を訪れたのは1月末。ミサイル基地となる陸上自衛隊石垣島駐屯地は年度内の開設に向け、急ピッチで工事が進められていた。
軍事基地をつくらせない市民連絡会(市民連絡会)事務局、藤井幸子さん(75)の案内でバンナ公園の展望台に立った。
「於茂登岳のふもとにあるのがミサイル基地。右端が弾薬庫です」と藤井さん。約60bの高台で元ゴルフ場と市有地。クレーンが林立し、むき出しの白っぽい土砂が目に飛び込んできた。周辺に広がる緑豊かな森や畑とはまったく違う。異様な光景だ。
貴重な水源地
基地周辺は、水道水の20%を賄う地下水や農業用水の貴重な水源地。大規模で特殊な軍事基地では、化学物質などによる水の汚染や工事による水の流れへの影響が懸念されている。
「地下水への影響を調べてほしい」。市民や専門家の意見に対し防衛省は「排水は浄化槽で適正に処理するから問題ない」と繰り返し、真摯に耳を傾けてこなかった。
「地下水は一度汚染されたら回復はほぼ不可能になる」と藤井さん。環境アセスメントも、県の条件をすり抜けるような形で工事が進められた。
さらに周辺は国指定天然記念物で絶滅危惧種、カンムリワシの優良な生息域でもある。
住民投票を拒否
「非武装の島」にミサイル配備計画が浮上したのが2015年5月。その直後から配備反対の市民運動が起きた。
建設地周辺の4自治組織(嵩田=たけだ=、開南、於茂登=おもと=、川原の各公民館)は配備反対決議を上げたが、防衛省や市はその声を無視し工事を強行した。
有権者の4割が求めた住民投票も実施されていない。「(配備に反対でも賛成でも)住民同士に分断を生まないように、『ちょっと立ち止まって考えよう』が出発点だったのに…」。住民投票を求める会(求める会)の設立メンバー、宮良麻奈美さん(30)は悔しがる。
宮良さんら求める会の若者は二つの裁判の原告(一つは敗訴)となり、今も住民投票の実施を求め続けている。
ミサイルの標的
石垣島に配備されたミサイルは地対艦と地対空の2種類。12式地対艦ミサイルは、現在の射程200`bを千`b超に改良する計画。安保3文書では「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、防衛費を今後5年間で43兆円に増やす大軍拡も進んでいる。
長射程ミサイルの配備は未定だが、石垣市議会は昨年12月、「他国を直接攻撃することが可能となり、近隣諸外国を必要以上に刺激する」とする意見書を賛成多数で可決した。
ミサイル基地容認派の中にも「長射程ミサイルを配備すれば、島が標的になる恐れがある」と不安の声が広がっている。
石垣市国民保護計画(13年3月策定、19年12月改定)によると、「ミサイル攻撃や着上陸侵攻など壊滅的な事態に6万5300人が島外に避難する」とある。民間航空機だけを使用した場合、全市民が避難するまでに10日間かかる想定だ。
同市の担当者は「市民の安全を担保できる計画を考えるが、実際に島外避難が可能かどうか分かりづらい。ハードルが高くて物理的に厳しい」と不安を口にした。
市民連絡会は4月2日、「万一に備える住民保護・避難の態勢もないままに(基地開設を)強行することに、強く抗議する」という抗議文を防衛省に提出した。
いのちと暮しを守るオバーたちのスタンディング=1月29日
「闘い続ける」
南西諸島で進む軍事要塞化に、沖縄戦の体験世代は「戦争の足音が近づいてきた」と危機感を募らせている。
「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」の会長、山里節子さん(85)もその一人。55年5月から1年半、米国の地質調査に加わったことで「軍事利用に荷担した」と償いの思いがあるからだ。
毎週日曜日、仲間のオバーたちと島内各地でスタンディングを続けている山里さん。
「自衛隊が存在する限り、生きている限り闘い続けます。オバーは神出鬼没ですよ」。ユーモアたっぷりに語る節ちゃんオバーの優しく、柔和な笑顔が忘れられない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号
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