2023年06月05日

【おすすめ本】河村小百合『日本銀行 我が国に迫る危機』─恐ろしい財政破綻への警鐘=志田義寧(北陸大学教授)

 世界主要国の中央銀行が物価高に対応するため、金融引き締めに舵を切るなか、日銀だけは“異次元 緩和”と呼ばれる長短金利操作付き量的・質的金融緩和を続けている。
 本書はこの頑なな姿勢の背景に、利上げをすれば日銀は数十年単位で債務超過に陥り、かつ日本の国債頼みの財政運営が破綻する可能性があるからだと指摘する。
 豊富なデータをベースに議論を展開しており、内容には説得力がある。表現がきついと感じる部分もあったが、それだけ現状に対して強い危機感を抱いているのだろう。

 日銀の2022年4―9月期決算では保有国債に8749億円の含み損が発生した。日銀の保有国債は満期保有が前提のため、売却しない限り問題は発生しないが、いずれ来る正常化の過程では日銀は当座預金の付利水準を引き上げざるを得ない。その時の金利負担で債務超過に陥る可能性は十分にある。本書も警鐘を鳴らしている。
 その先にあるのは、通貨の信認が損なわれることによる円安と、新規国債の発行ができないことを受けた財政破綻と大幅な歳出カットだ。

 本書は「異次元緩和が放漫財政を助長する道具と化した」と厳しく批判している。「我が国は国債のほとんどを国内で消化しているから、財政破綻することはない」という、よくある主張も戦後日本を引き合いにバッサリと斬り捨てている。
 こうした状況を許した背景には、私たちの甘えと無理解、無責任があると指摘する。本書は現実を直視し、無理解を断ち切る一冊となろう。(講談社現代新書1000円)
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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