2023年06月06日
【シンポジュウム】政治のメディア支配許さぬ 総務省文書、放送介入へのプロセス示す―前川さん NHK経営委を牛耳って国営放送化の野望―森さん 人事でごり押し安倍政権から=古川英一
「今回の総務省の文書の問題は何かと言えば、これは政治が放送の自由に介入しようとしたことがはっきり記されていることです」。文部科学省の次官を務めた前川喜平さん=写真右=が言い切った。
4月30日に東京の武蔵大学で「公共放送NHKはどうあるべきか」と題したシンポジウムが開かれた。主催したのは、NHK次期会長を市民自らが選んでいこうと活動を続けている市民グループで、前川さんは、会長候補を引き受け大きな柱となった。シンポジウムでは立憲民主党の小西参議院議員が国会で明らかにした放送法をめぐる総務省の文書がタイムリーなテーマになった。
前川さんは官僚時代の経験を踏まえながら「総務省の誰かが、放送行政の歪みを世の中に伝え国会でも追及してほしいと、文書を託したものだと思う。私はこういう行為は民主主義社会では正当な行為だと思う。行政の透明性、政治の透明性を高めるという行為であって決して処罰すべきではない。こうした文書は日々役所で作られていて、政治家に何を言われたかを決して忘れないように記録し、組織で共有し対処を考えていく、できる限り正確な情報を共有するためのものだから、そこに捏造があるわけがない」と指摘した。
その上で「放送法とは放送の自由を守るための法律なのに、政権側には取り締まるための法律だと考えている人が増えてきている。しかし放送においては事業者が自律的に守っていくべきものであって権力が介入すべきものではない。今回の問題は放送法の解釈変更だが、この解釈変更は安倍政権の常套手段だ。何が起きているかというと権力者が自分の子分をそれぞれの権力機関に任命してその親分子分の間で統治行為の全部が行われる、こういう日本になった、なりつつある。その一環としてNHKの会長問題もある」と安倍元首相以来の政権の姿勢を厳しく非難した。
続いてノンフィクション作家の森功さん=写真左=が講演した。森さんは、JR東海に君臨した葛西啓之元会長がいかにNHKの人事を牛耳ったのかを、昨年末出した著書「国商」で明らかにした。「葛西さんが立ち上げた『四季の会』では、むしろ安倍さんが葛西さんに師事し、言っていることはだいたい葛西さんの考え通りということで実現したのが第一次安倍政権だったが、わずか1年で退陣した。そのリベンジが第二次安倍政権で、その中で安倍さん、菅さん、葛西さんがNHK経営委員会を牛耳ればNHKのトップ人事まで操れる、という発想に至り人事に介入していく、これが葛西さんの野望で、それを実現していった。そして受信料を義務化し税金と同じような感覚で徴収し、政権の思い通りになる放送局に、国営放送にするという発想に葛西さんが賛同したのだと思う。稲葉現会長は「四季の会」のメンバーではないが、NHKの今後はやはり大変そうで、取材を続けていきたい」と語った。
NHKの問題は、単に組織の問題ではなく、放送という市民全体のメディアの問題で、放送の自由が脅かされるということは、表現の自由をも脅かすことに連なる、それを浮き彫りにしたシンポジウムだった。
「一番権力を持っているはずの国民が、その権利を預けている権力者をちゃんと告発しなければならない、そして監視する役割を持つメディアが支配されたら、本当に最悪の状態だ」前川さんのこの問いかけにメディアはどう応えていくのか。
ちなみに今回の活動の記録集「公共放送NHKはどうあるべきか」が今月三一書房から出版された。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
この記事へのトラックバック