クルド難民の食堂ハッピーケバブに入った。ラム肉は香ばしく、特にケバブがおいしい。6席の食卓はクルド人ばかり。日本語は少し通じた。蕨駅に近い店は2014年の開店。配膳係Mさんは「来日6年め」だった。クルド難民は日本に約三千人、多くは埼玉の川口・蕨に住んでいる。
彼らはトルコから日本に逃れて来た。でも難民申請を入管は却下。国連統計では5万人のクルド人が各国で難民認定されているのに日本での認定は昨年の1人だけだ。
クルド人には祖国がない。居住地はトルコ東部に1300万、イラン北西部に570万、イラク北部420万、ほかシリアなど、国境沿いにおよそ3千万人が住む世界最大の少数民族だ。しかし、各国から弾圧されてきた。時を遡れば英・仏やソ連による分割と支配があった。第2次大戦後の1946年1月、クルディスタン人民共和国として独立したが、イラン軍の占領で崩壊した。その後トルコでクルド労働者党が結成され、新たな独立運動が始まったものの、残酷な迫害が続いた。
トルコは彼らをテロ集団として敵視、数万のクルド人が海外に逃れた。スウェーデンなどはこれへの難民認定を続け、保護もした。エルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟を拒んだのはそれが理由だ。
クルド難民はトルコに戻されたら処刑が待つ。送還は死刑宣告同然だ。だが日本の入管は難民と認めない。不法滞在として収容されれば暴力や拷問がある。名古屋入管で死んだスリランカのウィシュマ・サンダマリさんのように医療も与えぬまま死を待つ処遇が横行する。入管収容中の死亡は07年以降18件だという。国連人権理事会が「日本は国際基準を満たしていない」と改善を求めたが、岸田政権はこれに抗議するありさまだ。
川口の難民は荒川を渡れば北区の商店街が目前にある。ところがこれが許されない。入管の許可がないと県境を越えられないのだ。健康保険もない。病気になれば医療費が何十万円と掛かるから我慢するしかない。
強行採決された入管法改悪案は、収容期限の上限がなく、子どもの収容も禁じない。さらに、3回以上難民申請した人の強制送還ができるとの条項もあり、難民らは怯える。迫害国への送還は許されないという国際原則も逸脱している。日本生まれなのに在留資格がない子どもらが4月、国会内で「日本語しか知らない私たちの未来を奪わないで」と訴えた。だがその声も涙も無視された。
ケバブを食べて店を出る時、難民から教わったばかりの「テシェキュルエデリム(ありがとう)」と声に出したら、厨房にいたクルド人たちから拍手喝采が起きた。
人間の命は等しく重い。改悪入管法は廃案としなければならない。
女優の、キョンキョン小泉今日子さんも「入管は送還ではなく保護を」とSNSで訴えている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
2023年06月09日
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