4月に行われた統一地方選では、女性の当選者が過去最多となった。背景には「政治分野における男女共同参画推進法」が2018年に制定されるなど、女性議員を増やさなければ社会がもたない、という機運の高まりがある。
総務省の調査では、道府県議選で当選者に占める女性割合は14%となり、政令市を除く市議選での女性割合は22%と初めて2割を超えた。町村議選でも全体の15・4%を占め、首長選の女性当選者でも、市長選で過去最多の7人が当選するなど、女性の躍進ぶりを印象付けた。
だが同時に、喜んでばかりはいられない危うさも見えて来る。まず、人口の半分を占める女性の議員比率が、なお1割、2割でしかないという異様さだ。
原因のひとつは、候補者自体の少なさだ。今回は過去最高の女性比率にはなったが、それでも道府県議選で16%、市区議選で22%にすぎない。
内閣府が2021年、「立候補を検討したが断念した者及び男女の地方議会議員」を対象に行ったアンケート調査では、断念の理由で性差が目立ったのが、「家庭生活との両立の困難」(女性47・8%、男性38・8%)、当選した首長や議員の回答では、「家庭生活との両立の難しさ」(女性52・6%、男性36・4%)、「政治は男性が行うものという周囲の考え」( 女性49・8%、男性22・8%)、「プライバシー侵害」( 女性48・8%、男性33・8%)だ。
女性の活躍の足を引っ張り、日本社会を停滞させている性別役割分業の足かせと、女性への家族ケア負担の偏りが、政治にも深刻な影響を与えていることがわかる。
もうひとつが、「女性が政治家になっても男性と同じ」という冷めた反応だ。 だが、ある集団で少数者が影響力を持つには3割以上が必要、という米国の研究者の調査もある。女性が2割行くか行か・ないかの政治の世界で、子育て支援や性暴力問題を政策のど真ん中に置くことは、簡単ではない。
そんな中で「女性議員の増加」だけが脚光を浴びれば、それは、資金力や人脈のある多数派男性にとって都合のいいものへと変質させられていきかねない。
たとえば、堀江貴文氏などの後押しを受けた「政治家女子48党」は、候補者は全員女性だ。だが、公約には「NHKスクランブル放送の実現」「北朝鮮日本人拉致問題」「規制緩和」などと並び、婚姻は両性の合意にもとづく」という部分がLGBTの権利にもとるとして家庭内の男女平等を規定した憲法24条の改正までが紛れ込んでいる。
女性は、このような孤立や混乱のただなかで生きている。いま必要なのは、こうした中で政治にかかわろうとする女性たちを支えるため、子育て支援や介護、DVなど女性たちを生きづらくさせている課題に地域で取り組む人々を結び、日常的に政策づくりや資金の支援を行う地域ネットワークづくりだ。
ドイツのメルケル首相の活躍の背後には、政策面で支援する女性の専門家集団があったと聞く。そうした支えなしでは、当選した心ある女性議員たちは心が折れ、草の根の女性たちは政治に再度失望しかねない。「女性議員ブーム」を「脱ジェンダー差別大国」の政治へとつなげていくため、地域の足腰の強化は待ったなしだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
2023年06月11日
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