2023年06月17日
【軍事】「日本壊滅」最悪シナリオ 安保政策大転換を読み解く 防衛ジャーナリスト・半田滋さん講演=山田寿彦
北海道支部は防衛ジャーナリスト(元東京新聞記者)の半田滋さんを招き、安保3文書改定と安保政策の大転換を読み解く講演会「日本が『戦争で滅ぶ国』になる!」を4月29日、札幌市で開いた。半田さんは敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有から「日本壊滅」に至る最悪のシナリオを提示し、「日本の軍事力強化は東アジアの不安定化を呼び込む」と警鐘を鳴らした=写真=。
北海道新聞労組の後援を得て市民約150人が参加した。安保3文書の最上位に位置付けられる『国家安全保障戦略』(昨年12月閣議決定)は「スタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力」の保有を「侵攻抑止の鍵」として初めて明記した。
同文書は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」を強調し、国民に対しても「安全保障政策に自発的かつ主体的に参画する」ことを求めている。しかし、敵基地攻撃を可能にする「スタンド・オフ防衛能力」(18大綱に明記)の保有目的をめぐる政府の説明は誠実さを欠いてきた。
反撃に核兵器も
「自衛隊員の安全を確保しつつ、相手の脅威圏の外から対処(するため)」との当初説明は「反撃能力」にすり替わり、専守防衛からの逸脱を既成事実化する「真っ赤な嘘」(半田さん)だった。
半田さんによると、米軍の統合防空ミサイル防衛(IAMD)に参加することにより、米国から購入する巡航ミサイル「トマホーク」を用いて敵基地攻撃を行う軍事的オプションが可能になる。
国内法の地ならしは集団的自衛権行使の要件として「存立危機事態」を規定した安保法制で行われた。米軍への攻撃を日本政府が「存立危機事態」と見なし、米軍防衛を自国防衛にすり替えて米軍の交戦国に対して軍事行動を起こすことが想定される。「集団的自衛権行使が、国際法では許されない先制攻撃に該当することがあるという矛盾をはらむことになった。反撃には核兵器も想定され、通常兵器でも原発が損傷すれば日本は壊滅的な打撃を受ける」と半田さんは指摘する。
そのようなシナリオが現実味を帯びるのが台湾有事だ。中国が「内政問題」として台湾の武力侵攻に踏み切ったとしても、日本領土への侵攻は想定しにくい。
しかし、米国が武力介入した場合は在日米軍基地への攻撃が想定され、「日本有事」に発展する可能性が高い。「存立危機事態の発令による日本の参戦」(半田さん)が中国から「先制攻撃」と見なされ、報復されるという最悪のシナリオだ。
米国は2027年までに台湾有事が起きると想定し、沖縄県の離島では「戦場化」を前提とした日米共同訓練が繰り返されている。
におう政治案件
台湾有事を念頭に置いた自衛隊の戦争準備が進む中で、安保政策の大転換を担保する装備品はトマホークなど米国製の「爆買い」により調達される。
NATO並みに対GDP比を2%とする防衛費は5年間で17兆円増の43兆円。23年度当初予算で米政府からの有償軍事援助(FMS)は過去最高だった19年の2倍を超える1兆4768億円に膨れ上がった。
米国からの兵器購入では退役が決まっている旧式の無人偵察機3機に629億円を支払うなど、不合理な契約を押し付けられている例があり、官邸主導のいかがわしい「政治案件」のにおいも漂うという。
半田さんは香田洋二・元自衛艦隊司令官の「今回の計画からは自衛隊の現場のにおいがしない。日本を守るために最も必要で有効なものを積み上げたものなのだろうか」との見解を紹介。「プロの目でもおかしいと言っている。100%同意する」と賛意を示した。
膨張する防衛費の財源に増税は避けられない。半田さんは問いかける。「私たちは重い負担を引き受ける軍事力強化を望むのか。台湾有事の戦場は日本と台湾であり、米国や中国(本土)ではない。敵基地攻撃能力を持ち、対米支援は自滅を選ぶのに等しい」
半田さんの結論は「平和は軍事力ではなく、命がけの外交によって実現する」。市民が政治に関心を持ち、政治家に外交努力の覚悟を求めることこそが戦争回避の道になることを強調した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
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