テレビを付けると「今日は盲導犬の日」(4/26)だと、その意義を伝える映像が流れてきた。1900年代初頭のヨーロッパで盲導犬の育成が始まり、それを記念して定められたという。
さて1900年代といえば日本は明治時代。その時代に、瞽女(ごぜ)という盲目の女性旅芸人がいた事実を知る人は、どの位いるだろうか。瞽女とは三味線を携え音曲を奏で喜捨の旅で生計をたてていた、盲人女性の職業名である。瞽女の起源は古く室町時代まで遡れる経緯まで知る人となれば、極めて少ないであろう。
本書で詳述される上越高田の地に生きた高田瞽女の歴史は、江戸時代に始まり昭和まで続く。筆者が縁あって高田瞽女を紹介する仕事に就いたとき、手にした本が本書の著者が刊行した「高田瞽女三部作」だった。光を 失った瞽女の世界が輝いて見えた。
瞽女を特別視しない著者の視線が、人間瞽女をくっきりと浮び上がらせていた。13年もかけて高田瞽女の元に通い、ありのままの姿に向き合い結ばれた絆。あれから時は流れたものの、瞽女と過ごした体験や感懐を、新たに一冊の本にした。三部作では語り尽くせなかった思いが、本書にはあふれている。
高田瞽女は、男を組織に入れない強靭な掟を守り、生き抜いてきた。その終焉の時を迎え、高田瞽女・最後の親方である杉本キクエが、男たる著者に託した熱い願い。著者との気の置けない時の中、瞽女がゆっくりと肩の荷を下して行く姿に、心が揺さぶられた。
もう高田瞽女の姿に会うことはできないが、その心の豊かさは、本書が確実に伝えてくれる。座右に置くべき高田瞽女のバイブルである。(平凡社新書960円)
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