2023年06月22日

【南西諸島視察・報告】「分断」に苦悩の地元 保守優位政治と利害絡む=米倉外昭

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 今回の宮古島、石垣島訪問で、自衛隊基地建設・増強に反対する市民運動をしている人たちに実際に起きていることを教えていただくとともに、戦争の準備が進むことに対して市議会議員や地元メディア関係者(宮古、八重山には、それぞれの地域をエリアとする「地域紙」と呼ばれる日刊新聞が2紙ずつある)からも話を聞いた。住民の危機感や「本音」を聞きたいと思ったからだ。
 それぞれの新聞は、人口5,6万人の地域で賛否が対立する問題に対して論調を明確にすることは簡単ではない。しかし、反対運動の動きも丁寧に報じており、地域紙の責任を果たそうとしている。
 地域分断と報道の難しさの背景にはいくつもの事情がある。第1に、基地建設やミサイル配備、安保関連3文書の閣議決定など、事態の進展が早すぎて、住民がじっくり考えたり議論したりできていない。また、不安はあるが、まさか本当に戦争にはならないだろうという正常性バイアスが働いている。

 背景には長年にわたる地域の状況がある。尖閣問題の地元として中国脅威論または中国への不安は根強い。これも働いて政治的に保守が優勢で、保守系市長が4選しており議会も保守系が多数だ。さらに、離島としてさまざまな政策支援を受けており、政府が決定すれば従わざるを得ないという雰囲気が強い。
 自衛隊と米軍の違いもある。沖縄本島が米軍の訓練や事件事故の被害にさらされているに比べ、自衛隊に親近感がある。災害時などの自衛隊の救難活動が期待できるという意見もある(日常の急患搬送は、宮古では自衛隊、八重山では海保が担ってきた)。また、自衛隊関係者が地域に増えれば批判しにくくなるだろうという地元紙記者の声があった。

 経済的事情も無視できない。基地建設、住宅建設の工事関係のほか、隊員の家族らが増えることで経済効果がある。住民避難のためのシェルター建設さえも、新たな公共工事として期待する業者がいるという。

 しかし、今の流れでは、米国の出方次第で、あるいは偶発的な出来事によっても、戦争は起きてしまう。住民避難も、住民を保護できるだけのシェルター建設も非現実的すぎる。さらに戦場が南西諸島にとどまる保証はなく、日本全体、さらに米国を全面核戦争にエスカレートする可能性も否定できない。戦争を起こさないためにどうすべきか、という立場に立った報道、論説が、地元以外のジャーナリズムにこそ求められているのではないだろうか。   
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 九州・沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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