2023年06月23日
【南西諸島視察・報告】「有事」は仮定の話 沖縄から市民の声を上げる 我部政明さんにインタビュー=聞き手・黒島美奈子
いわゆる「台湾有事」は現在、沖縄県内にさまざまな波紋を呼んでいる。地元紙は連載や企画を相次いで展開。市民による平和集会が繰り返し開催されているほか、県内経済界は有事を想定した独自の調査研究チームを発足させた。一方、有事とはどういう状態を指すのか。どんな過程をたどり有事となるのか。実態はあいまいだ。沖縄から見える有事について国際政治学者の我部政明さん(琉球大名誉教授)=写真=に聞いた。
―今年初め、主宰する沖縄対外問題研究会(対外研)から台湾有事に関する声明を発表した。
「主眼は復帰50年の節目に立ち、今後の沖縄の対外関係の目指す方向を示す提言だ。その議論の中で出てきたのが前年12月の台湾有事に関する安倍発言だった。それを契機として沖縄や日本で鳴り響く『台湾有事』論議を批判することから、東アジアの平和と安定は生まれると判断した」
―対外研はこれまでも節目に主張(声明)してきた。
「活動を始めたのは1999年5月。沖縄の対外関係について相互批評し、時代の変化に合わせ沖縄の声を発信することが目的だ。2001年に誕生したブッシュ米政権が初期の『アーミテージ報告』に基づいて在日米軍基地強化を唱えたことに問題提起し、2005年から2006年にかけての米軍再編報告についても主張を発表した」
―沖縄から発信する理由は?
「沖縄は当事者だからだ。当事者を抜きにした話し合いについて発言することは不可欠で、今回の台湾有事に関する提言もその一環だ。台湾は、大国の狭間で存在しなければならない沖縄と類似的な存在であり、そうした台湾と沖縄にとって自己決定の保障は重要だ」
―昨年は「『台湾有事』を起こさせない・沖縄対話プロジェクト」の発足につらなった。
「市民が声を上げるための機会として発足した。台湾有事には沖縄や日本、台湾、中国、米国という国や地域が関わる。対話するには、まず互いを知らなければならないだろう」
―市民の関心は高い。
「緊張が高まっていることが背景にあるだろうが、危険な兆候でもある。なぜなら緊張が高まると人はやがて自分のことしか考えなくなる。国民保護計画が注目を浴びている現状がまさにそれだ。不安だから自分たちの安心安全に傾倒する。そこで止まればいいが不安は不安を呼ぶ。いずれ自分を守るため戦争は『やむなし』となり、自覚のないまま戦争は『不可避』になってしまう」
「避難計画の必要性は分からなくもないが、それより先にやるべきことがあるのではないか。台湾危機によって沖縄が戦場となるのはなぜか。答えを自ら探ることが、意図せず私たちがつくり出す非常事態への道から脱することにつながると考える」
「避難の困難さはウクライナをみても分かる。国境を越えて避難した人がいる一方、大部分が国にとどまっている。沖縄戦でも大勢の県民が疎開しなかった。とどまる合理的な理由があるはずで、それを知りもせずに私たちは避難計画を空想していないだろうか」
―有事の不安が募る一方、戦争のリアルが見えていないと。
「繰り返すが安全保障上の緊張がないわけではない。けれど有事という危機が指摘されるのは、いずれも仮定形だ。中国が武力侵攻を『したら』から始まる仮定が恐怖を煽っている」
―戦争への道を私たち自身がつくり出しているとすれば、今どうすべきか。
「考えることだ。おそらく考えるほど、戦争に出口はないと気づき、戦争をはじめるべきではないとなる。有事の正体は曖昧模糊としていることに気づくはずだ」
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
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