現代の日本社会が抱える大きな課題の一つが「孤独」・「孤立」だ。近年、日本社会では、新自由主義的価値観のもと、人々が〈自己決定/自己責任〉の論理の中に組み込まれてしまっている。その結果、他者との間の結び付きも分断され、経済的・精神的に「ひとり」となった多くの人々が貧困やストレスによって疲弊しているように思われる。
こうした社会の姿を映し出しているのが刑務所であると言える。現在、刑務所では、社会において居場所を失い「ひとり」となった多くの高齢者や障がいのある人達が「結果的に」収容されてしまっている状況が見られる。
本書において、著者は、女性刑務所に焦点を当てて、「塀の中」に大きく映された「塀の外」の真の姿を克明に描写している。女性刑務所の現状は、日本社会において女性を取り巻く構造的な格差が存在していることをも示唆している。男女間でケア責任・雇用形態・賃金などの不均衡が依然としてあり、著者の専門である社会保障の見地からも問題点が指摘される。こうした構造的な問題が、女性の、とりわけ「おばあさん」の「孤独」・「孤立」の背景にも見られることを丹念な取材から浮き彫りにしている。
著者は、女性刑務所の様々な受刑者や刑務所職員へのインタビューを通じて、受刑に至った事情などを明らかにしている。刑務所内で当事者の声を直接聞くという大変貴重な取材の結果が示されている。
我々がこうした「生きづらさ」を抱えた日本社会を変えていくためにも、是非、本書を読んでいただきたい。(角川新書940円)
この記事へのトラックバック