憲法9条の成立過程で、誰が最初にいいだしたのかを巡って、論争が続き、マッカーサーによる押し付け論が繰り返されてきた。マッカーサー自身は、それは幣原首相だとくり返し証言しているのだが。
本書は、副題を「幣原喜重郎発案の証明」としてその意図を明示し、第1部で憲法の成立過程をマッカーサーと天皇と幣原の三者を軸に整理する。著者は幣原の発案、マッカーサーの同意、さらに天皇にも上奏、承認を得ていた点を重視し、憲法成立過程における天皇(昭和)の果たした役割も強調している。宮内庁編『昭和天皇実録』も傍証資料である。
第二部は幣原喜重郎発案否定説の批判的整理である。著者は幣原説に立って、従来の幣原説の系譜を整理し、マッカーサー説および幣原説批判の根拠を歴史学的に批判する。さらに、幣原説の根拠とされている「平野文書」にも資料批判を加え、平野三郎と幣原の関係、この「文書」が憲法調査会に収められた経緯を含めて、この文書の資料価値を批判する論者に対して、その論拠を批判している。歴史学者ならではの資料批判と論証の方法の手堅さに感服した。
私自身かねがね幣原発意説を主張してきたが、歴史家である笠原氏のお仕事は強力な同志の出現に思えて、ありがたい。本書の最後では「9条地球憲章の会」の地球平和憲章の運動にも、幣原の思想を引き継ぐものとして言及している。なお私も近著『地球時代と平和への思想』(本の泉社)では、地球時代の視点からの幣原平和思想の意義をのべた。
(平凡社新書1700円)
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