2023年07月04日

【映画の鏡】ウクライナ戦争の源流『世界が引き裂かれる時』観客の想像力に委ねた戦闘描写=伊東良平

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ウクライナの戦場の映画であるが、今行われているウクライナ戦争ではない。2014年にドネツクとルハンシクの東部2州で親ロシア派が離脱宣言を行い、ウクライナ政府と内戦状態になる。

クリミア併合とともに今回のロシア侵攻に繋がった源流だ。14年そのドネツク州のロシアとの国境近い村がこの物語の舞台である。妊娠中の妻と夫が暮らす家が親ロシア勢力の誤爆によって大きな穴が開いてしまう。分離派の優勢な地区で反ロシア派との対立は激しさを増していき、新しい命の誕生を待つ夫婦の生活はその中で巻き込まれて破局へと向かう。

 この映画は内容から映画会社からの協力を断られ、スタッフなどがお金を出し合って撮影を開始、撮影は2020年からドネツクと地形が似ている南部のオデッサ地方で行われた。メディア特にテレビではウクライナ報道が盛んに行われているがそのほとんどは作戦や戦略であったり、どこを制圧してどう攻勢をかけるかなどが中心で、そこで戦っている人間がどういう状態か、どれだけ犠牲になっているかはあまり伝えられない。そこにいるのはまぎれもない生身の人間であり、そうした人たちがいて戦いがあるのだ。

 戦争がどれだけ多くの普通の市民に大きな影響を与えて犠牲を強いるか。この映画はそのことを教えてくれる。ウクライナの女性監督エル・ゴルバチはあえて戦闘シーンを描かずに、起こっている暴力的な行為を観客の想像力に委ねた。そのことが戦闘に翻弄される人間の姿をクローズアップさせている。

 侵攻直前の22年1月に第38回サンダンス映画祭の監督賞を受賞。シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開 。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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