2023年07月09日
【焦点】15兆円の「水素利権」むらがる政官民学 脱炭素は絵に描いた餅%d気分解での製造は電力のムダ使い=橋詰雅博
地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出削減をめざす脱炭素社会の電力源・燃料として水素エネルギーは有力という。燃やしてもCO2を出さないが最大のウリ。さらにいろいろなものから作ることが可能、貯蔵も効くため切り札≠ニ持ち上がられる水素エネに関する新聞報道がここにきて目立つ。ざっとこんな具合だ。
日本が主導して
・岸田政権は官民合わせてこの先15年間で15兆円の投資を計画。
・米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEFアイペフ)」の閣僚会合では水素の導入拡大に向け各国間での技術協力や供給網(サプライチェーン)構築の推進を合意。立ち上げる水素技術で協力する「域内水素イニシアチブ」を日本が主導する。
・水素と空気中から取り込んだ酸素を化学反応させて電気エネルギーに変える燃料電池搭載タクシー(燃料電池車は、走行中は水のみ出る、EVより長い距離を走れる)用の水素ステーションを産業ガス世界最大手の仏エア・リキード社が国内で展開。
・山梨県は甲府市の米倉山に世界的な水素・燃料電池開発のイノベーション拠点づくりを産学官からなる「水素社会実現戦略会議」で具体的に検討する。
・全国最多の15の原発が立地する福井県南部に水素の製造・供給施設の建設を県が計画。
・液体水素が燃料のトヨタ自動車のエンジン車が富士スピードウェイ24時間耐久レースを完走。トヨタは水素エンジン車(燃料電池車)の市販化へ。
疑問を指摘する記事は見当たらない
水素エネルギー社会到来近しというイメージが植え付けられそうだが、そもそも水素は石油・石炭・天然ガスの化石燃料や風力・太陽光などの再生可能エネルギーなどの一次エネルギー(原子力も含む)を加工して得られる。この二次エネルギーの現実的な製造法として2種類あげられる。
CO2貯蔵は困難
天然ガスなどから抽出したメタンを加工(水蒸気改質と言う)して水素を得る方法が一つだ。安価な水素を製造できるが、メタンを燃やした時と同じ量のCO2が発生するのがネック。これでは脱炭素社会の構築にはまったく役に立たない。そこで発生したCO2を回収・圧縮し地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)方式が検討されている。エネルギー問題に詳しい工学博士の松田智氏(元静岡大学工学部准教授、化学環境工学専攻)はこう解説する。
「CCSを脱炭素の切り札的手段とマスコミはもてはやしているが、CO2固定・貯留には、コストがかかるし、電力も消費するので、さらにCO2排出が増える。実際、大口発生源の火力発電所で実現できていないのは、CCS方式を使うと発電単価の上昇が避けられないからです。しかもCO2をどこでもいいから埋めればいいかというとそうはいかない。CO2がもれない石油・天然ガスの廃坑とか堅ろうな場所が必要です。CCS方式の実用化は極めて困難です。現に、経産省の資料でも、実用化開始は2030年度からとなっていますが、コストや埋立規模などは明記されていません。「絵に描いた餅」に近いと言えます」
もう一つは再生エネ電力を使い、水を電気分解して水素を作る方式。製造過程でCO2が発生しないので「グリーン水素」と呼ばれ、日米欧を中心にこの水素製造技術や活用する燃料電池の開発に躍起なのだ。
64%も電力ロス
「ここでの大きな問題は水の電気分解(水素を発生)と燃料電池による発電(水素の消費)を経るとエネルギー効率は概算で36%まで落ちること(各段階の効率が約60%なので)。いくら貯えることできても製造プロセス段階ですでに64%もの電力をロスしている。実際には水素の輸送・貯蔵でさらにエネルギーを使う。こんな電力の無駄使いをやるより再生エネ電力をストレートに使う方が最も効率的だ」(松田氏)
問題はさらにある。日本でつくる再生エネ利用のグリーン水素は高くつくので、海外の安価な再生エネ由来の水素を専用船で大量輸入することを政府は考えているが、輸送方法に手間がかかる。
補助金ねらい
松田氏は「可燃性の水素の爆発リスクを避けるため有機物を反応させて安全な液体状態して運び、日本で水素に戻す方式と、現地でアンモニアに変えて、そのまま燃やす方式を検討している。いずれの方式でも電力ロスは約80%。コストも相当かかる。結局、単価は5倍以上にハネ上がる。現地の発電単価が安くてもこれでは間尺に合わない商売になる」「商売ベースでは多分成立しない。補助金ありきの政策です」と指摘した。
税金食い物に
問題山積みで水素エネ社会の実現が疑わしいのに水素政策に走る背景について松田氏は「水素利権≠ノ群がる政官民学が税金を食い物にしようというよこしまな思惑がある」と断罪した。
新たな利権への巨額な税金の投入が始まった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
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