政府は「次元の異なる少子化対策」の財源について、結論を先送りした。検討している社会保険料への上乗せは反対意見も多く、合意を得るには時間がかかると判断した。当然だ。社会保険料は増税ほどアレルギーがないため、ステルス値上げをしやすい。取りやすいところから取るという安易なやり方は、到底受け入れられない。本当に必要な費用であるならば、増税も含めて正面から議論すべきだ。
実質負担増なき
異次元政策とは
6月1日に開催されたこども未来戦略会議では、少子化対策の財源について、@徹底した歳出改革等によって確保することを原則とする、A企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み「支援金制度(仮称)」を構築する、B消費税を含めた新たな税負担は考えない――などの方針が示された。「実質的に追加負担を生じさせないことを目指す」とも明記した。
異次元とうたう政策にもかかわらず、実質負担はないという。それは本当に異次元の政策と呼べるのか。本当に異次元の政策を実行するのであれば、それ相応の痛みを覚悟する必要があるのではないか。その意味で、有力な財源のひとつである増税カードを早々と選択肢から外したことに、筆者は強い違和感を覚える。
社会保険上乗せ
公平性で問題も
新たに構築する支援金制度(仮称)は「社会保険の賦課・徴収ルートを活用する」と明記された。「支援金」に姿は変えたものの、実質的に社会保険料に上乗せする方向に変わりはない。
総務省の家計調査によると、2人以上世帯のうち勤労者世帯の社会保険料は2000年に月額平均4万8019円だったのが、2022年には同6万7175円まで増加した。
収入に占める割合も8・5%から10・8%に上昇。税金も含めた非消費支出は2割近くに達している。
社会保険料は現役世代に負担が偏っており、社会保険料への上乗せは賃上げの流れに水を差しかねない。
日本経済新聞が5月26日から28日に行った世論調査では、社会保険料に上乗せ徴収する案について、69%が反対と答えている。
そもそも保険とはリスクに備えるための仕組みだ。出産・子育てはリスクなのか。その意味で、少子化対策に社会保険料を充てることは制度の趣旨からも逸脱している。
日米で対照的な
財政規律の意識
政府は安定財源を確保するまでのつなぎとして「こども特例公債」を必要に応じて発行する。つなぎとはいえ、また国債だ。
バイデン米大統領は6月3日、米政府の債務上限の効力を2025年1月まで停止する「財政責任法」に署名、債務上限問題が決着した。
債務上限をめぐるドタバタはここ数年の恒例行事だが、国債発行に関して一定の歯止めがかかる仕組みがあることは健全と言える。翻って日本は債務残高のGDP比が主要国で最悪にもかかわらず、財政規律に対する意識は極めて低い。
>少子化の原因に
ピント外れ施策
今回の少子化対策は財源に使えない聖域が設けられたこともあり、結果として異次元とは呼べない施策が目につく。少子化の原因は非婚化、晩婚化にもかかわらず、施策は子育て支援が中心でピントがずれていると言わざるを得ない。これでは少子化の流れは変わらないだろう。この内容で社会保険料に上乗せされたらたまったものではない。
岸田首相は「ラストチャンス」と訴えるが、施策を見る限りチャンスの火はほぼ消えかかっている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
2023年07月15日
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