2023年07月21日

【オンライン勉強会】放送を語る会 「政治的公平」の判断に政治介入の不当 独立規制機関設置こそ必要だ=府川朝次

 「放送を語る会」では5月31日、メディア総合研究所事務局長の岩崎貞明氏を講師に招いて、「放送法解釈変更と政治権力〜総務省文書が明らかにしたもの」とのテーマでオンライン勉強会を開いた。2023年3月2日、立憲民主党参議院議員の小西洋之氏が国会記者会見で明らかにした総務省文書『「政治的公平」に関する放送法の解釈について』をテキストに、放送法に示された「政治的公平」について改めて考え直そうとする企画だった。

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 従来、政府は「放送の政治的公平」について、「不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、放送番組全体としてバランスのとれたものであること」とし、「その判断にあたっては、一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断すること」という見解を堅持してきた。しかも放送法では、そうした権利は「放送事業者の自律の保障を基本とする」ことにあった。

 ところが、2014年から2015年にかけて、当時安倍晋三首相の総理補佐官を務めていた礒崎陽輔氏が個別番組の政治的公平性を問題にし、「極端な例」という但し書きをつけて単独の番組でも政治的公平を問題視できるよう、解釈を変更すべきだと総務省に執拗に迫っていたのだ。この過程で礒崎氏は、「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」「この件はおれと総理が二人で決める話」などと高圧的な態度をとり続けていた。小西氏が明らかにしたのは、その一連のやり取りを生々しく記した78ページに及ぶ文書だった。

 講師の岩崎氏は今回公開された文書について、人事権を掌握した官邸の権限が絶大であることを如実に示した内容であると感想を述べ、結果的には官邸の意に沿う形で、2016年2月12日の「一つの番組だけでも極端な内容の場合は『政治的公平』とは認められない」とする政府の「政治的公平に関する統一見解」に結びついていったと指摘した。この発表に先立つ2月8日と9日、当時の総務大臣高市早苗氏は「放送法違反を政府が認定した場合、電波法に基づく運用停止規定を適用する」と衝撃の発言をし、メディア側の強い反発を買っていた。

 こうした動きについて岩崎氏は「メディアが判断すべき政治的公平が、政府に利用されてしまっている」と批判し、「政府は個別にせよ番組全体にせよ放送の公平性については一切口をはさむことはできない」ことを強調した。そして、政府の介入を防ぐ意味からも、世界の常識となっている放送の独立規制機関の設置の必要性を説いた。

 「放送を語る会」にとって初めての試みであるオンラインによる勉強会には、弘前や大阪、神戸などもふくめ39名が参加。感想として「放送における政治的公平性」の意味がよく分かったなど好意的な意見が数多く寄せられた。「語る会」はこれまでに視聴者と放送に携わる者が直接対話できる場として「放送フォーラム」を活動の中心の一つに据えてきた。その数は60回に及んでいるが、2020年以降コロナの影響で途絶えたままになっていた。会員からの要望もあり、「フォーラム」復活の糸口にしようと実施したのが今回の勉強会だったが、以前のような対面での「フォーラム」開催も視野に、今回の経験をどう発展させていくか、「語る会」の取り組みは新たな段階に入ってきている。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号        
posted by JCJ at 03:00 | TrackBack(0) | 放送 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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