撮影者Kentaro Takahashi
イスラム教徒と大分県日出町住民の対立から浮き上がった土葬用の墓地を巡る問題を追った鈴木貫太郎『ルポ 日本の土葬 99.97%の遺体が火葬されるこの国の0.03%の世界』(宗教問題)が出版された。
神の力による復活を信じるのは、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教に共通する信仰だが、イスラム教徒が土葬できる墓地は、中国・九州地方には存在しなかった。2011年、大分県内で、あるムスリムの長男が早産で急逝し、埋葬場所に奔走したことが端緒となった土地探しが、こじれにこじれてしまったのだ。
著者が関係者の意見を丹念に聞き取ると、忌避施設の受け入れにありがちな合意形成の複雑さが明らかとなっていく。土葬の風習を知る町民にとっては、宗教や科学では割り切れない「共同体としての感情」が根底にあると著者は思い至る。
では、火葬だけが、絶対善なのか?土葬の一点から、全面展開されていく。実父を土葬し、8年後の真夜中に一人で遺骨を掘り起こし、洗骨、埋葬を執り行った神主、土葬の寺、土葬の普及を奨める市民団体、土葬専門業者らの意見も聞き取る一方で、火葬が急増した時代背景、国の政策、都市化と土葬の衰退との相関関係を紐解く。
現在、国内のイスラム教徒は約23万人にのぼる(5〜6万人の日本人含む)。また、6月には、外国人の在留資格の特定技能の分野が大幅に拡大された。在留期間の更新上限がなくなって、家族の帯同も可能となり、永住者が増えれば、日本で亡くなる外国人は増えてくるだろう。土葬という古くて新しい弔い方を、当事者や小さな町だけに押し付けるのは理不尽な課題だ。人生の入り口だけでなく、最期も多様性に富んだ社会を実現する上で参考となる渾身のルポだ。
2023年08月12日
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