2023年08月15日
【23緑陰図書―私のおすすめ】関東大震災・朝鮮人虐殺を再照射する3冊=石丸次郎(アジアプレス・インターナショナル)
9月1日で関東大震災発生から100年を迎える。 地震直後から多数の朝鮮人・中国人が殺害されたが、その主体は治安機関だけでなく、流言蜚語に煽られパニックに陥った日本の民衆であった。
標的になった朝鮮人は、なぜ当時<不逞> と称され、怖れ蔑まれていたのか。その理由も合わせて再照射してくれる三冊を紹介したい。
歴史は記憶と記録の集積だ。写真はファクトを強く刻印する重要な記録資料だが、朝鮮人虐殺についていえば、関連するものが少ない上、日時や場所、撮影者が不明なものが多い。
『関東大震災に描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』(新日本出版2022年)で元専修大学教授の新井勝紘は、小学生からプロの画家までが描き残した関連画を丁寧に紹介している。
目を引くのは著者がオークシヨンで落手して間もない「関東大震災絵巻」だ。虐殺の現場、光景を彷彿とさせる絵に釘付けになる。この絵巻は東京大久保にある高麗博物館で12月 24 日まで公開されている。
『関東大震災 朝鮮人虐殺を読む─流言蜚語が現実を覆うとき』(亜紀書房8月下旬刊行予定)は当時の文筆家たちも体験、目撃談などを書き残している。劉永昇(リュウエイショウ)は、作家の日記や手記、小説などに綴られた朝鮮人虐殺に関連する文章を、丹念に拾い集めている。志賀直哉や野上八重子、中西伊之助らの一文から震災直後の殺伐とした空気を伝えてくれる。
当時の新聞メディアが、デマをもとに荒唐無稽な誤報をまき散らしたことはよく知られている。「不逞鮮人 一千名と横浜で戦闘開始 歩兵一個小隊全滅か 」「屋根から屋根へ鮮人が放火して廻る」(新愛知9月5日号外)が、その一 例。 新聞は民衆の憤怒と恐怖を煽り、殺りくに駆り立てる一因を作った。
これら誤報の山を「朝鮮人による略奪や襲撃からの自衛だった」と歪曲・矮小化するための「文書資料」として活用する人たちがいる。加藤直樹『トリック─ 朝鮮人虐殺をなかったことにしたい人たち』(ころから2019年)は、典型的な歴史修正本の言説を、ひとつひとつ精緻に検証・論破して、その「トリック」を暴いた貴重な仕事だ。
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