リニア新幹線構想が各地で問題を起こし、開通の見通しが立たなくなっているが、これに先立って着工された東京外環道工事も2020年10月調布市で住宅街で、大規模な陥没事故を引き起こして難航、開通の見通しは全く立たない状況にある。
東京地裁は昨年2月、住民の仮処分申請を認め、気泡シールドマシンによる工事の本線南側60%の掘削を差し止める決定を下し、今年7月7日付で最高裁も上告棄却でこれを確認する形となった。
街壊し進み騒然
いま、北側の地下掘削は再開され、一方で裁判所仮処分決定で着手できない現場付近の住宅街では、「地盤補修」のため、むき出しのパイプラインが小川の上に載り、バラバラと住宅解体が始まり、「街壊し」が進んで騒然とした空気に包まれている。
そして問題は「地上に影響はない」として地権者の住民に一切関係がないとして作られた「大深度地下法」(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の違憲、違法性が焦点。リニア新幹線以前からの開発工事の是非が問題になっている。
住民に被害続出
大深度地下法は、「地上だと地権者と交渉し買収するのが大変。『大深度』なら地上に影響はないから開発が進む」という政財界、官界の思惑を露骨に反映した法律。1980年代の終わり頃から宣伝された「地下開発論」の中で生まれ、2000年に成立した。
「地下40bまたは建築物の基盤10bのどちらか低い方」より深い土地を「大深度地下」と決め、公共事業なら地権者に断りなく開発できるとの理屈をつけて無断工事を合法的に可能化しようとしたものだ。
ところが調布の現場では、外環道工事が進むにつれ騒音、振動、酸欠空気の噴出など、何も知らない住民への被害が続出。「地上に影響が出ない」どころか、地下にできた大空洞で家が立ち並ぶ住宅街が大陥没。裁判所も、工事一部差し止めの決定を出さざるを得なくなった。
仮処分決定無視
しかし、政府(国交省)と東日本、中日本の高速道路会社(NEXCO)は、差し止めの仮処分には「検討する」というだけ。新しい対策も計画も立てず、差し止め決定の対象以外の場所で工事を続行。「地盤補修」と称し、コース上の住宅取り壊し―更地化―コンクリート流し込み、のなど、さらに大工事を企画、知らん顔で工事を続けている。
問題は「所有権の不可侵」をうたう憲法29条がその一方で定める「正当な補償の元」での「公共のための利用」について、大深度地下法には何も規定がないことだ。現実に起きているのは、土地の所有権者が知らないうちに、地下が掘り崩され、巨大な建築物(トンネル)が造られ、このトンネル建設が、住民が平穏に住む生活の安全、安心を妨害し、人権侵害を起こしている。
ゼネコンと癒着
工事は費用対効果も、社会的な必要性もすでに薄い。それがなぜ止められないか。
リニア新幹線も同様だが、少子化の中で車が減り渋滞も緩和された今、その必要性は減り、費用回収の見通しはない。問題は工事継続を目的化と、その裏にあるゼネコンと政府の癒着であり、関係地域だけの問題ではない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号
2023年08月27日
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