2023年09月12日

【おすすめ本】関口竜平『ユートピアとしての本屋 暗闇のなかの確かな場所』―なぜヘイト本を置かないのか 書店は「安心できる場所に」=永江 朗(ライター)

 民族的ルーツなど変えられない属性について、憎悪と差別を煽る本をヘイト本という。ヘイト本に対する書店の態度は、主に3つに分かれる。
@何もしない。取次から配本された本を並べるだけ。買う人がいるのだから、売るのは当然だと考えている。このタイプがいちばん多い。
Aヘイト本をそれと対抗するような本と並べて陳列する。ジュンク堂書店の福嶋聡のいう書店=言論のアリーナ論である。
Bヘイト本は置かない。昨今増えている個人経営の小さな書店(独立系書店とかセレクト書店と呼ばれる)は、取次からの 見計らい配本を受けず、書店が独自に選んだ本だけを仕入れる。だから独立系書店でヘイト本を見かけることは、ほとんどない。

 千葉市幕張にある「本屋lighthouse(ライトハウス)」は、さらに一歩踏み込み、ヘイト本のみならず歴史修正主義的な本も扱わないことを掲げている。本書はこの書店の店主が、いかにして書店を始めるに至ったのか、なぜヘイト本や歴史修正本を扱うべきではないかを綴るエッセイである。

 著者の願いはひとつ。「書店は安心できる場所であってほしい」ということ。ところが昨今の多くの書店は違う。韓国や中国にルーツを持つ人にとって、ヘイト本は凶器のようなものだ。店内を歩くだけで嫌でも目に入る書名や帯の惹句は、自分の存在を否定し、生存を脅かす。それを「表現 の自由だから我慢せよ」というのは傲慢だ。ことは生存権にかかわる。

 著者が実践するのはヘイト本の排除だけではない。子供たちが安心して読書を楽しむための多様な仕掛けを、本屋内に設けている。こうした書店を買い支える読者になりたい。(大月書店1700円)
                
「ユートピアとしての本屋」.jpg

posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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