2023年10月01日
【焦点】善良な人間がなぜ虐殺に走る 「福田村」森達也監督オンライン講演 異質排除の同調圧力 メディア ゆがみ正す役割=橋詰雅博
劇映画デビュー作「福田村事件」(9月1日公開)を手掛けた森達也監督=写真=は8月27日のJCJオンライン講演で自作の映画のキーワードや人間の本性、メディアがマスゴミと言われるゆえんなど情熱を傾けて語った。映画の前宣伝と思ったが内容はすごく濃かったという視聴者の感想もあった。
映画のモデル、福田村事件は、関東大震災発生の5日後の1923年(大正12年)9月6日、千葉県福田村(現野田市)にやってきた香川県の被差別部落出身者の薬行商団15人を朝鮮人と誤認した地元自警団が9人を殺害したのだ。
2001年ごろ新聞記事でこの事件を知り興味を惹かれた森氏は、現場に何回か足を運び図書館などで探した資料を基に報道番組の特集枠での放送を目指す企画書を作成し、仕事を請け負っていた民放各社のプロデューサーに持ち込んだがすべて断られた。朝鮮人虐殺に絡むことと、被差別部落の問題も加わっていることが断られた理由だったようだ。その後、森氏は自著のエッセイ『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(ちくま文庫)で事件を取り上げた。この惨殺事件の映画化を考えていた今回のプロデューサーや脚本家から誘われた森氏は3年前に監督を引き受けた。
代表作のオウム真理教信者の実相に肉薄したドキュメンタリー映画「A」(1998年公開)と「福田村事件」の共通キーワードは「集団」だと指摘する森氏は説明した。
「人は群れる生き物です。なぜなら弱いからです。しかし群れにはデメリットがある。全体の動きに個が合わせようとするので集団内での同調圧力が強まる。とくに不安や恐怖を感じさせる異質な者に出会うと、集団は警戒を強める。肌や髪の色、言葉、信仰、民族、政治など違いは何でもいい。自分たちと異なる少数派を排除することで自分や家族が属する集団を守ろうと動く。かくして善良で穏やかな普通の人たちが虐殺に走る」
森氏は日本のメディアに苦言を呈する。
「メディアは不安と恐怖をあおる報道が目立つ。テレビは視聴率を、新聞は部数を伸ばすため。オウム事件が最たるものでした。世界の報道の自由度ランキング(「国境なき記者団」毎年発表)では安倍晋三政権以降、日本は低迷しており、22年は71位。メディアがひどいと、社会は成熟せず、政治家もひどくなる」
三位一体だからこそメディアの役割は重要というわけだ。
「日本のゆがみともいうべき朝鮮人と被差別部落への差別が重なり合った典型がこの事件」という森氏は「目をそむけたくなる事件と思っている方もいるだろうが、映画は観客のエモーションつまり感情を揺り動かすエンターテインメントが基本です。とくに後半は手に汗握る展開になっている」と語った。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
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