2023年10月04日

【リレー時評】「著しく公益を害する」のは誰か=黒島奈美子(JCJ沖縄世話人)

 都道府県が国策と異なる判断をした場合、国がその判断を拒否すれば、都道府県は国に従わなければならない―。
 沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り最高裁は4日、国と地方の関係性にかかわる一つの判決を下した。
 「国側が取り消す裁決をした場合、同じ理由で県が再び承認しないことは地方自治法の規定に違反する」と指摘。「それが許されるなら、紛争の迅速な解決は難しくなる」とも断じた。

 新基地建設問題で県と国が争った訴訟は13件に上る。そのうち今回で7件で県の敗訴が確定したことになる。
 いずれも県と国の関係性を問う裁判だ。発端は2015年11月、国側の提訴に始まる。
 故翁長雄志知事が前知事の埋め立て承認を取り消したことに対し、国側が翁長氏の処分を取り消すための代執行を求めて訴訟を提起した。「承認の取り消しを放置すれば、著しく公益を害する」という理由だった。
 当時の安倍晋三政権が、県との対話を避け裁判闘争に持ち込んだのである。同様の態度はその後の菅義偉政権や岸田文雄政権にも引き継がれている。

 あれから8年が経過。2度目の抗告訴訟で最高裁が示したのは、当初の国の主張をなぞらえた結論だった。
 建設の妥当性には一切触れず、ひたすら公共工事の遂行を後押しする。公権力の行使に対して不服がある場合に提起するという抗告訴訟の存在意義すらも危うくする判決だ。
 そもそも新基地建設問題とは何か。
 国内では沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設先として1997年に持ち上がった。沖縄の基地負担軽減策を沖縄に負わせるという矛盾した計画に、県民は当初から反発した。
 工法の問題や政権交代などで計画案が浮上しては消えるを繰り返し、現行計画に固まったのは2010年。仲井真弘多元知事が埋め立てを承認したのは13年12月だった。

 一方、米軍は1966年すでに辺野古沖合を埋め立て3千b級の滑走路を建造する計画をもっていた(2001年6月3日付『沖縄タイムス』)。
 「海軍施設マスタープラン」で、当時の図面は現行計画とほぼ重なる。実現しなかった背景には土地収用に地元の反発が予想されることや、当時1億3千万jという巨額の費用があったという。
 こうした経緯を見れば「基地負担軽減」という国民向けの説明とは全く異なる新基地建設の実態がうかがえる。
 軟弱地盤の発覚で総工費は計画の3500億円以上から9300億円以上に跳ね上がった。
 国民をだまし「著しく公益に害する」のは誰なのか。司法が見定めるべきはその点にこそあった。(沖縄タイムス論説委員会副委員長)
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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