2023年10月05日
【JCJジャーナリスト講座】初の「就活支援ゼミ」で19人内定 健全なジャーナリズム願い指導=新崎盛吾(新聞労連元委員長、共同通信記者)
「JCJジャーナリスト講座」の流れを受け、記者志望の学生の就職活動を支援しようと昨年12月に始まった「就活支援ゼミ」が、ようやく今期の活動を終えた。JCJとしては初めての取り組みだった。
内定24人中19人
参加した24人のゼミ生のうち19人が新聞・放送業界の内定を獲得し、来春から記者として、社会人の第一歩を踏み出すことになった。進路の内訳は現時点で、NHK4人、日経新聞と読売新聞が各3人、共同通信、時事通信、北海道新聞が各2人、中日新聞、河北新報、新潟日報が各1人となる見通しだ。
近年の新聞・放送業界は、採用活動の開始時期の前倒しに拍車が掛かり、大学3年の夏にはインターン募集が始まる。表向きは会社を知ってもらう就業体験とされているが、実際には作文教室や相談会などの名目で優秀な学生を呼び出し、採用活動に直結させているケースがほとんどだ。
早ければ12月には内定を出し始め、年が明けると全国紙の動きが本格化。3月には大半の社が内定を出して最初のピークを迎え、その後にブロック紙や地方紙が選を始める。複数の内定を得て辞退する学生も多く、各社が夏採用、秋採用で補充を繰り返すという流れだ。
就活支援ゼミのガイダンスには、転職を目指す社会人2人を含め、計20人が集まった。2班に分けてそれぞれのゼミ長と副ゼミ長を決め、3週間ごとに作文やESの書き方、模擬面接などを指導する。作文添削やES指導など、各日のプログラムは一応決めるが、各自の選考状況に合わせて個別希望にも対応する。
各班でLINEグループを作り、活動の合間にZOOMなどでゼミ生だけの勉強会を開き、自主練習をすることも奨励した。1人当たり5千円の参加費を集め、会場費や活動後の懇親会の補助に充てた。
1人で指導できるのは、10人ずつの2班態勢が限度だが、活動が進むにつれて内定を獲得したり、別業界に進むことを決めて離脱したりする学生も出てくるため、途中参加を希望した4人を受け入れ、最終的には24人となった。
マスコミ志願減
記者が花形職業だった時代とは異なり、ネット社会の進展とともに、新聞・放送業界を志望する学生は激減している。地方紙からは、人数確保のために適性が薄くても採用せざるを得ないとの声も聞こえてくる。若手の退職増の一因として、そのような負のサイクルが影響しているとの指摘も的違いではないだろう。
だからこそ、就活を始める時期が遅かったり、やる気はあっても文章力などで見劣りしたりする学生を指導する取り組みは、今の時代に健全なジャーナリズム活動を維持するためにも、不可欠だと感じる。
一方で出身大学の多様化が進み、国立大と早慶で半数以上を占めていた全国紙の採用状況も様変わりした。中央大や法政大などの「MARCH」は今や主力層で、日本大や専修大などいわゆる「日東駒専」からの内定者も増えた。多様な視点を必要とする記者が求められる新聞・放送業界にとって、悪い傾向ではないはずだ。
新聞労連の委員長に就任した2014年以降、会社に復職した後も「新聞労連作文ゼミ」の就活支援にかかわり続け、これまで9年間に約300人の学生を新聞・放送業界に送り出してきた。新聞労連が昨年から、ゼミの活動期間を秋から3月までに短縮するなど態勢縮小の方針を固めたため、須貝事務局長(当時)に相談し、これまでの指導態勢を維持しようと考え、JCJで新たにゼミを立ち上げることになった。
昨今の学生は、全国紙が内定を出す大学3年の3月までに内定が得られなければ、他業界に転じる傾向が強い。一方で、その時期までに内定を得られる学生は、指導を受けなかったとしても、独力で内定を得ている可能性が高い。記者になる人材の裾野を広げるためには、3月以降の支援が重要だと実感している。
今回内定を得た19人のうち、3月の時点で内定を得ていたのは5人。7月に初めての内定を得たゼミ生も2人いた。最後まで諦めずに取り組むことができたからこその結果といえるだろう。
ミスマッチ防止
能力面で多少見劣りしても、記者になりたいという強い思いで粘り強く就活を続け、最終的に内定を勝ち取る学生は少なくない。過去には留年して2度目の就活で内定を得た学生や、大学4年の11月に初めての内定を得た学生もいた。一方で、その後の状況を見ると、就活で苦労した学生ほど、離職せずに頑張り続けている傾向も目立つ。
途中で記者の道を諦め、進路変更するゼミ生にとっても、自分の進路についてじっくり考える機会になったとすれば、無駄な時間ではなかっただろう。将来的に会社を辞めてしまうミスマッチを、事前に防止することにもつながるからだ。
大きな伸びしろ
新聞・放送業界を目指す学生と9年間付き合い続けてきて、最も感心することは、若いからこその伸びしろの大きさだ。初めて会った時には、とても記者には向かないと感じた学生が、数か月後に各社の内定を次々に獲得することがある。なぜ記者になりたいのか、将来何がやりたいのかを見極め、説得力を持って語ることができるようになれば、多くの学生が内定を得ることを実感した。その後押しをすることが、将来の新聞・放送業界、ひいてはジャーナリズム活動を支えることにつながると確信している。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
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